リバーブ、ディレイ、コーラス。空間系とモジュレーションを一通り揃えようとすると、それだけでボードの後半が埋まってしまいます。かといってマルチエフェクターに乗り換えれば、気に入っている歪みペダルの居場所がなくなる。この板挟みは、多くのギタリストが一度は通る道ではないでしょうか。
TC ElectronicのPLETHORA X3は、その隙間を埋めるために設計された1台です。TC自身は本機を一般的なマルチエフェクターではなく「TonePrintペダルボード」と呼んでいます。ここではその仕組みから搭載エフェクト、上位機X5との違い、そして購入前に必ず知っておきたい仕様の制約まで順に見ていきます。
PLETHORA X3とは|TCペダルを自由に組み替えられる仮想ペダルボード
PLETHORA X3の考え方はシンプルです。仮想的なペダルボードを作り、そこに3台までTCのペダルを並べ、それぞれに好みのサウンド設定を読み込ませる。この一式をまるごと保存して、フットスイッチで呼び出せるようにしたのがPLETHORA X3です。
ボード・ペダル・TonePrintという3つの階層
製品情報を見ると127、3、75という数字が並んでいて混乱しやすいのですが、これらはそれぞれ別の階層を指しています。ここを理解しておくと、本機の自由度の高さがはっきり見えてきます。
| 階層 | 内容 |
|---|---|
| ボード(BOARD) | 3つのペダルスロットで構成される仮想ペダルボード。最大127個を保存・呼び出し可能 |
| ペダル(PEDAL) | 1つのボードに3台まで配置。16種類から自由に選択でき、並び順も変更可能 |
| TonePrint | 各ペダルに読み込ませるサウンド設定。エフェクトごとに75スロット分を本体に保存可能 |
つまり127という数字はエフェクトの数ではなく、「3台構成のペダルボードを127通り作り置きできる」という意味です。曲ごと、あるいはセクションごとに丸ごと違う構成へ切り替えられるため、実質的に127枚のミニボードを持ち歩いているような感覚になります。
ペダルの割り当てには制限がなく、同じエフェクトを複数スロットに置くこともできます。ディレイを3台直列に並べる、といった実機では大掛かりになる構成も、ボード1枚として保存しておけます。
搭載されている16種類のエフェクト
選択できるのは、TC Electronicの単体ペダルとして知られるモデルを中心とした16種類です。いずれもオリジナルのアルゴリズムが使われています。
- リバーブ/ディレイ系:HALL OF FAME 2 REVERB、FLASHBACK 2 DELAY、ALTER EGO VINTAGE ECHO
- モジュレーション系:CORONA CHORUS、VORTEX FLANGER、HELIX PHASER、VISCOUS VIBE、SHAKER VIBRATO、PIPELINE TAP TREMOLO、MIMIQ DOUBLER
- ピッチ系:SUB ‘N’ UP OCTAVER、BRAINWAVES PITCH SHIFTER、QUINTESSENCE HARMONY
- ダイナミクス系:HYPERGRAVITY COMPRESSOR、SENTRY NOISE GATE
- その他:TAPE DECK LOOPER(PLETHORAシリーズ専用)
歪み系エフェクトは搭載されていません
ここが本機を検討するうえで最も重要なポイントです。上のリストを見てわかるとおり、PLETHORA X3にオーバードライブやディストーションは一切入っていません。空間系・モジュレーション・ピッチ・ダイナミクスに特化した構成です。
これは機能不足ではなく設計思想によるものです。歪みはすでにお気に入りのペダルを持っているはず、という前提に立ち、そこに足りない部分だけを埋める製品として作られています。逆に言えば、1台で歪みまで完結させたい方には向きません。「マルチエフェクター」という言葉から想像する守備範囲とは異なるので、購入前に必ず確認しておいてください。
上位機PLETHORA X5との違い
X3は同シリーズX5のコンパクト版という位置づけです。同時使用できるエフェクト数が5つから3つに減った点がわかりやすい違いですが、実際にはそれ以外にも省略された機能があります。
| 項目 | PLETHORA X3 | PLETHORA X5 |
|---|---|---|
| 同時使用エフェクト | 3つ | 5つ |
| 保存可能なボード数 | 最大127 | 最大127 |
| エフェクトループ | 非搭載 | 搭載 |
| エクスプレッションペダル端子 | 非搭載 | 搭載 |
| MASHフットスイッチ | 3つすべてに搭載 | 搭載 |
エフェクトループとエクスプレッションペダル端子が省かれている点は、X5からの乗り換えを検討している方にとって判断材料になります。海外メディアのレビューでも、センド/リターンがあればより柔軟だったという指摘が見られます。
一方で、既存のボードに組み込む前提であれば3スロットで足りるケースは多く、省スペース化とのトレードオフをどう見るかという話になります。空間系をまとめて整理したいという目的なら、X3のほうが導入しやすいでしょう。
MASHフットスイッチ、ルーパー、内蔵チューナー
踏み込む強さで操るMASH
3つのフットスイッチはすべてMASH機能に対応しています。MASHは踏み込む圧力を検知する仕組みで、任意のパラメーターを割り当てておけば、強く踏むほど深く効くという操作が可能になります。
X3にはエクスプレッションペダル端子がないため、リアルタイムでの可変操作はこのMASHが担う形になります。ディレイのフィードバックやリバーブのミックスを足元で動かしたい場面では、専用ペダルを増やさずに済むという利点があります。
TAPE DECK LOOPER
PLETHORAシリーズ専用のルーパーで、録音時間はステレオで40秒、モノラルで80秒です。他のエフェクトと同じくペダルスロットの1つとして扱えるため、シグナルチェーンのどの位置にも配置できます。リフの練習や簡単なループ演奏には十分な長さです。
Unituneチューナーとキャビネットシミュレーター
クロマチックチューナーのUnituneを内蔵しているため、チューナーペダルの分だけボードに余裕が生まれます。加えてスピーカーキャビネットシミュレーターも搭載されており、オーディオインターフェースやPAへ直接接続する際に使えます。ライン出力での宅録や、アンプを持ち込まない現場で効いてくる機能です。
TonePrintアプリとBluetooth連携
PLETHORA X3は、TCペダルとして初めてBluetoothを搭載したモデルです。無償のTonePrintアプリとスマートフォンやタブレットを無線で接続し、TonePrintの読み込みやボードの編集が行えます。
TonePrintは各エフェクトのパラメーターや、ノブ・MASHへの割り当てまでを含んだ設定データです。読み込むだけでペダルの性格が大きく変わるため、本体だけで音作りするよりも到達できる範囲が広がります。アーティストが作成したTonePrintも公開されており、自分でエディットしたものを保存しておくことも可能です。
本体のノブでも即座に調整はできますが、細かい設定はアプリ側で行う設計です。スマートフォンが手元にある前提の製品と考えておくとよいでしょう。
使い方の実例
既存ボードの後段にまとめて組み込む
最も現実的な使い方は、歪みペダルの後ろにX3を置き、空間系とモジュレーションをここに集約する構成です。TCの空間系ペダルを3台コンパクトに並べたような感覚で扱えます。歪みは手持ちのペダルのまま、後段だけを整理できるので、音の変化を最小限に抑えつつボードを軽くできます。
曲ごとにボードを切り替える
127枚のボードを曲順に並べておけば、ライブ中は呼び出すだけで構成が丸ごと入れ替わります。設定は自動保存されるため、演奏中に保存操作を意識する必要もありません。MIDI IN端子を備えているので、外部機器から切り替えを制御することも可能です。
ライン出力での宅録・配信
キャビネットシミュレーターを有効にすれば、オーディオインターフェースへ直接繋いで録音できます。歪みは手前のペダルで作り、X3で空間処理とキャビシミュを担当させる形なら、比較的シンプルな機材構成でまとまります。
買う前に知っておきたいこと
- 歪み系エフェクトは非搭載:オーバードライブ/ディストーションは含まれません。歪みペダルは別途必要です。
- エフェクトループなし:センド/リターンを備えていないため、アンプのループ内で完結させたい構成には制約が出ます。
- エクスプレッションペダル端子なし:リアルタイム操作はMASHフットスイッチで行います。
- 電源要件が大きい:9VDCセンターマイナスで600mA以上が必要です。パワーサプライの空きポートが供給量を満たしているか、事前にご確認ください。
- 電池駆動はできません:一部に9V電池で動作するという情報が見られますが、消費電流の大きさから現実的ではありません。ACアダプターまたはパワーサプライが必須です。
- アダプターの同梱有無:販売店によって同梱・別売の表記が分かれています。購入前に販売店へご確認ください。
スペック
| バイパスモード | トゥルーバイパス |
| 入力端子 | 2 × 1/4″ TS アンバランス |
| 入力インピーダンス | 1MΩ |
| 出力端子 | 2 × 1/4″ TS アンバランス |
| MIDI | IN / THRU(5-pin DIN × 2) |
| USB | Mini-B |
| Bluetooth | Version 4.2 Low Energy(通信距離 最大約10m) |
| レイテンシー | 0.8〜2.4ms |
| 電源 | 9VDC センターマイナス(5.5 / 2.1mm)600mA以上 |
| ボード数 | 最大127 |
| ペダルスロット | 3 |
| TonePrint保存数 | エフェクトごとに最大75 |
実売価格は販売店やタイミングによって変動しますので、最新の情報は各ショップでご確認ください。
よくある質問
- オーバードライブやディストーションは入っていますか?
-
入っていません。PLETHORA X3は空間系・モジュレーション・ピッチ・ダイナミクス系の16種類で構成されており、歪みは手持ちのペダルを使う前提で設計されています。
- 127というのはエフェクトの数ですか?
-
いいえ、保存できるボード(プリセット)の数です。1つのボードには3台までペダルを配置でき、その組み合わせを127通り保存しておけます。
- エクスプレッションペダルは使えますか?
-
専用端子がないため接続できません。リアルタイムでのパラメーター操作は、踏み込む強さに反応するMASHフットスイッチで行います。
- 9V電池で動きますか?
-
動きません。600mA以上を必要とするため、ACアダプターまたは容量に余裕のあるパワーサプライを使用してください。
- 同じエフェクトを複数使えますか?
-
使えます。3つのスロットに同じペダルを割り当てることが可能で、ディレイを3台直列に並べるといった構成も作れます。ペダルの並び順も自由に変更できます。
- パソコンやスマホがないと使えませんか?
-
本体のノブだけでもエフェクトの選択と基本的な調整は可能です。ただし細かいパラメーター編集やTonePrintの追加はアプリ経由となるため、スマートフォンやパソコンがあったほうが本領を発揮できます。
まとめ
PLETHORA X3は、すべてを1台で完結させるタイプのマルチエフェクターではありません。歪みは手持ちのペダルに任せ、空間系とモジュレーションだけを3スロットに集約する。その割り切りによって、既存のボードに無理なく組み込める設計になっています。
お気に入りの歪みペダルは手放したくないけれど、後段が増えすぎて困っている。そんな方にとっては、ボードを一段階すっきりさせる現実的な選択肢になるはずです。

