ディレイとリバーブ、どちらも妥協したくない。けれどボードにはもう2台分の余白がない——Source Audio Collider(SA263)は、その二択を成立させないための1台です。完全に独立した56bitプロセッサーを2基搭載し、ディレイとリバーブをそれぞれ専用機と同じ感覚で鳴らします。Nemesis DelayとVentris Dual Reverbという同社の看板機から選び抜かれた12エンジンが、11.6×11.1cmの筐体に収まっています。
Source Audio Collider(SA263)とは
Colliderは、Source Audioが展開するOne Seriesのディレイ/リバーブ複合機です。ベースになっているのは、単体機として高い評価を得たNemesis DelayとVentris Dual Reverb。この2台から使用頻度の高いエンジンを抜き出し、1つの筐体にまとめています。
ポイントは、内部に56bitプロセッサーが2基入っていることです。片方のDSPが処理落ちを避けるために簡易的なリバーブを担当する、といった構成ではありません。2基それぞれがフル性能で動作するため、深いテープディレイと広大なホールリバーブを同時に立ち上げても、音の密度が痩せません。Source Audioは、この構成を「高性能なディレイ機と高性能なリバーブ機を1台に収めたもの」と位置づけています。
フットスイッチはディレイ用とリバーブ用で独立しています。曲中でリバーブだけ残してディレイを切る、という操作が足元で完結するため、ライブでの運用がそのまま2台持ちの感覚に近くなります。
搭載する12エンジンの内訳
ディレイ側とリバーブ側、それぞれに用意されたエンジンは次のとおりです。ヴィンテージ機の再現から、実在しない空間を作り出すタイプまで幅があります。
ディレイエンジン
- DIGITAL:加工を加えない、原音に忠実なリピート。バッキングでもリードでも輪郭を保ちます
- ANALOG:バケツリレー素子特有の、リピートごとに暗く沈んでいく質感を再現します
- TAPE:ムービングヘッド式テープエコーの再現。帯域が制限され、ワウ・フラッターやサチュレーションといったテープ由来の揺らぎが乗ります
- REVERSE:60年代サイケデリックロックで定番となった逆再生サウンド。TONEノブの設定次第で複数の逆再生音が重なり、脈打つトレモロのような効果も作れます
- OIL CAN:オイル缶式ディレイに着想を得た、暗く歪んだ揺れを持つサウンド。Nemesisでは拡張エンジン扱いだったものが本体に搭載されています
リバーブエンジン
- ROOM:実在する部屋の響きを捉えたエンジン。小さな室内から劇場規模まで、空間のサイズを可変できます
- HALL:80年代のスタジオ用ラック機を下敷きにしたエンジン。拡散が強く、後から膨らんでくるブルーム感が特徴です
- TRUE SPRING:スプリングリバーブ搭載アンプ特有の「ドリップ」まで再現したエンジン
- PLATE:50〜60年代のプレートリバーブ機に見られる、高密度で拡散の速い響き
- SHIMMER:ルーム系の響きにオクターブ上の成分を混ぜ、荘厳な倍音の層を作ります
- E-DOME:Ventris由来の最大規模の空間シミュレーション。アリーナ級の残響が長く伸び続けます
- SWELL:原音にボリュームスウェルをかけたうえでリバーブへ送るエンジン。アタックを消した、輪郭のないパッド的な音像を作れます
Unlockモード:2基のDSPを自由に振り分ける
Colliderの性格を決定づけているのがUnlockモードです。通常は左のDSPがディレイ、右がリバーブという役割分担ですが、この制限を解除すると、どちらのDSPにも任意のエンジンを割り当てられるようになります。
結果として、Delay+Reverbに加えてDelay+Delay、Reverb+Reverbという構成が可能になります。テープディレイの後段にアナログディレイを重ねて減衰の質感を作り込む、スプリングとE-DOMEを併用して近接感と広がりを両立させる、といった組み方ができます。エフェクトの前後関係も入れ替えられるため、リバーブをディレイの前に置いた場合の、輪郭がぼやけたリピートも作れます。
この設定はNeuro Mobile AppまたはNeuro Desktop Editorから行います。実機のスイッチ操作だけでは切り替えられないため、Unlockを使う前提であれば、アプリの導入は必須と考えてください。
ライブ運用を支える機能
プリセットとMIDI
本体の操作だけで最大8つのプリセットを保存・呼び出しできます。外部MIDIコントローラーを使えば128プリセットまで拡張され、スイッチャーからのプログラムチェンジで曲順どおりに音色を並べられます。MIDI端子はフルサイズの5ピンDINを備え、USB MIDIにも対応します。MIDIクロックへの同期に対応しているため、同期演奏でディレイタイムを走らせる運用にも組み込めます。
タップテンポとフリーズ
左のフットスイッチはディレイのオン/オフとタップテンポを兼ねます。拍分割は4分音符、付点8分音符、3連符から選択でき、本体トップパネルの専用スイッチで切り替えます。タップスイッチの操作でディレイの一部を連続ループさせるフリーズ動作も行えるため、コードを鳴らしっぱなしにしたまま上物を重ねるような使い方にも対応します。
ノブロックとバイパス
KNOBSトグルスイッチをセンター位置にすると、ノブが物理的に動いても設定が変化しなくなります。移動や本番中の接触で音色が崩れる事故を防ぐ機能です。
バイパスは3モードから選べます。リレーによるトゥルーバイパス、透明度の高いバッファードバイパス、そしてバイパス後も残響を残すソフトバイパス。さらに原音は完全にアナログのまま通過するアナログドライスルー設計で、空間系を常時オンにしても芯が痩せません。入出力はステレオで、TRSの変換ケーブルを用意しなくてもステレオ運用に入れます。
Neuro 3による拡張
Neuro Desktop Editor(Mac/Windows)とNeuro 3モバイルアプリ(iOS/Android)はいずれも無償で提供されています。接続すると、実機のノブに割り当てられていない詳細パラメーターまで編集できるようになります。カスケード、パラレル、スプリットステレオといったルーティングの選択もこちらから行います。
作り込んだプリセットは本体に書き込めるので、一度設定してしまえばアプリを接続せずに呼び出せます。Source Audioが公開しているプリセットライブラリのダウンロードや、ユーザー同士での共有にも対応しています。Neuro Hubと組み合わせれば、One Seriesペダルを最大5台まとめて1つのシーンとして管理し、MIDIプログラムチェンジで一括呼び出しすることも可能です。
スペック
| 搭載エンジン | ディレイ/リバーブ 計12種 |
| プロセッサー | 56bit独立DSP × 2基 |
| 入出力 | ステレオイン/ステレオアウト |
| バイパス | トゥルーバイパス(リレー式)/バッファードバイパス/トレイル付きソフトバイパス |
| プリセット | 本体8/MIDI経由で128 |
| MIDI | 5ピンDIN、USB MIDI、MIDIクロック同期対応 |
| 外部制御 | エクスプレッションペダル、外部スイッチに対応 |
| 電源 | 9VDCセンターマイナス/2.1mm |
| 消費電流 | 300mA |
| 最大入力レベル | +6.54dBV |
| インプットインピーダンス | 1MΩ |
| アウトプットインピーダンス | 600Ω |
| オーディオ性能 | 108dB DNRオーディオパス/24bitAD-DA変換/56bitデジタルデータパス |
| 寸法 | 11.6cm(縦)× 11.1cm(幅)× 5.6cm(高さ/ノブ含む) |
| 重量 | 450g |
| 筐体 | ブラッシュド仕上げアルマイトアルミニウム |
| 同梱品 | 本体、Mini USB – USB-Aケーブル、USB-A – USB-C変換アダプター、クイックリファレンスカード |
| 保証 | 2年 |
購入前に確認しておきたい3つのこと
電源アダプターは同梱されません
現行のColliderに電源アダプターは付属しません。同梱されるのはUSBケーブルとUSB-C変換アダプター、クイックリファレンスカードのみです。9VDCセンターマイナス、300mA以上を供給できる電源を別途用意してください。国内の販売ページには旧仕様の付属品表記が残っている場合があるため、購入時は同梱物の記載を確認しておくと安心です。
消費電流300mAという数字の重さ
300mAは一般的なコンパクトエフェクターと比べてかなり大きい数値です。手持ちのアイソレート電源に300mA対応のポートが空いているか、事前に確認しておく必要があります。空きポートが100mA級しか残っていない場合、Colliderのために電源そのものを見直すことになります。
ジャックは側面配置
ステレオ入出力とフルサイズMIDI端子を側面に備えているため、筐体寸法から想像するよりもボード上の占有面積は大きくなります。ケーブルの取り回し分を含めた奥行きを見込んでレイアウトを考えてください。
Colliderが向いている人/向いていない人
向いている人
- ディレイとリバーブを1台にまとめつつ、音質面で妥協したくない方
- 曲ごとにプリセットを切り替えるライブ運用をしている方
- MIDIスイッチャーを軸にボードを組んでいる方
- アンビエント系で、ディレイ2基掛けやリバーブ2基掛けを試したい方
- ステレオ環境で空間の広がりを作りたい方
向いていない人
- ノブを回すだけで完結する、シンプルな1機能ペダルを求めている方
- アプリを使った設定作業を避けたい方(Unlockや詳細編集はアプリ必須です)
- 電源の供給能力に余裕がないボードを組んでいる方
- ディレイかリバーブ、どちらか一方だけを極めたい方
Nemesis・Ventrisとの使い分け
Nemesis DelayとVentris Dual Reverbは、それぞれディレイ専用機、リバーブ専用機として設計されています。搭載エンジン数はColliderより多く、1つのエフェクトを深く追い込むならこの2台に分があります。
一方でColliderは、両者から実用頻度の高いエンジンを選び出し、2基のDSPで同時に走らせることに焦点を絞った設計です。ボード上の1枠でディレイとリバーブを完結させたい、あるいはUnlockでディレイ2基・リバーブ2基という構成を作りたいなら、Colliderが噛み合います。エンジンの選択肢の多さを取るか、1台で完結する運用性を取るか。この軸で判断すると迷いが減ります。
よくある質問
- 電源アダプターは付属しますか?
-
現行モデルには付属しません。同梱されるのは本体、Mini USB – USB-Aケーブル、USB-A – USB-C変換アダプター、クイックリファレンスカードです。9VDCセンターマイナスで300mA以上を供給できる電源を別途ご用意ください。
- アプリを使わなくても実用になりますか?
-
実機のノブとスイッチだけでエンジン選択、パラメーター調整、プリセットの保存と呼び出しまで行えます。ただしUnlockモードによるDelay+DelayやReverb+Reverbの構成、ルーティングの変更、詳細パラメーターの編集はNeuroアプリから設定します。
- モノラルのアンプ1台でも使えますか?
-
使えます。INPUT 1とOUTPUT 1のみを使用すればモノラル運用になります。ステレオ環境に移行した際も、そのまま出力を増やすだけで対応できます。
- プリセットは何個まで保存できますか?
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本体の操作で最大8つ、外部MIDIコントローラーを使用すると最大128まで呼び出せます。
- アンプのセンドリターンに入れても使えますか?
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使用できます。原音がアナログのまま通過するアナログドライスルー設計に加え、エフェクトループでの使用を想定したドライキル設定も用意されています。
まとめ
Colliderは、ディレイとリバーブを1台にまとめた製品の中でも、片方を簡易版に落とすという妥協をしていない点が際立ちます。独立した56bitプロセッサー2基、Nemesis/Ventris譲りの12エンジン、独立フットスイッチ、フルサイズMIDI、ステレオ入出力。ここまで揃って450gの筐体に収まっているという事実が、この機種を選ぶ理由そのものです。
電源アダプターが別売りである点と、300mAという消費電流だけは事前に手当てが必要です。そこさえクリアできれば、ボードの1枠で空間系が完結します。

