アナログディレイを一台。そう決めて調べはじめると、どこかで必ずCarbon Copyに突き当たります。2008年発売で、いまも現行品。定番と呼ばれる機材にはそれぞれ理由がありますが、このペダルの場合、その理由はできることの多さではなく、むしろできることの狭さのほうにあります。
Carbon Copyの繰り返しは、原音より暗く返ってきます。鳴るたびに高域が削がれ、輪郭がほどけ、やがて音というより気配に変わっていく。デジタルディレイの正確なコピーに耳が慣れていると、最初は物足りなく感じるかもしれません。ただ、この崩れ方こそがCarbon Copyの核心です。明るくはっきりした繰り返しを求める人のために、MXRはのちに別のモデルを用意しました。裏を返せば、M169は暗い側に振り切ったまま十数年変わっていないということでもあります。
MXR M169 Carbon Copy Analog Delayとは
M169 Carbon Copy Analog Delayは、Jim Dunlop傘下のMXRが2008年に発表したコンパクト・アナログディレイです。信号経路をすべてアナログで組み、BBD(バケツリレー素子)で音を遅らせるという、デジタル以前からの方式をそのまま採っています。
ノブはDELAY、MIX、REGENの3つ。天面のMODスイッチでモジュレーションを足せるほかに操作系はなく、プリセットもタップテンポもディスプレイも持ちません。それでいてディレイタイムは最長600ms。アナログ回路でこの長さを確保したことが、発売当時からこのペダルの評価を支えてきました。
国内正規品はモリダイラ楽器が取り扱い、希望小売価格は¥30,800(税込/2026年8月現在)です。
前に出ないことが、このペダルの設計思想
繰り返しが暗くまろやかに広がるのは、偶然の産物ではありません。MXRはのちにBright、Mini、Deluxeを展開する際、いずれも「オリジナルの暗くまろやかな広がり」を基準点に据え、そこに明るさを足す手段としてBrightスイッチを設けました。暗さがCarbon Copyの素顔であり、明るくしたい場合には別の答えが用意されている。シリーズの構成そのものが、そう語っています。
この性格が効いてくるのは、ディレイを効果ではなく空気として使う場面です。繰り返しが原音と同じ明るさで返ってくると、フレーズの輪郭が二重になって濁ります。Carbon Copyは繰り返しがひとりでに後ろへ引くため、原音の抜けを損ないません。アンサンブルに混ざったとき、ディレイが鳴っていること自体は気づかれず、奥行きだけが残る。そういう働き方をします。
バッキングで薄く敷けばコードの隙間が埋まるだけで済み、ソロで深めにかければフレーズの背後に靄がかかる。同じ設定のまま曲の中で役割が変わっていくのは、繰り返しが自己主張しないからこそです。
ノイズにも手が入っている
アナログディレイは構造上ノイズが乗りやすく、そこを嫌ってデジタルへ移った人も少なくありません。M169には2:1レシオのノイズリダクションが組み込まれており、ノイズフロアはMIXを最大まで上げた状態で-96dBV、絞りきった状態で-104dBV。ディレイ音の歪率も1kHz・-5dBV入力時で1%未満に抑えられています。残響を長めに積んだときの背景ノイズを気にせず使える設計です。
4つのコントロールでできること
DELAY|20msから600msまで
右へ回すほど繰り返しの間隔が広がります。最短の20msは間隔として聞き分けられない領域で、原音に厚みが加わるダブリングとして働きます。そこから少し上げれば跳ねるようなスラップバックになり、最長の600msまで開けば、コード一発の余韻が長く尾を引きます。
MIX|原音とディレイ音のバランス
M169のMIXは絞りきると100%ドライ、回しきると100%ウェットになります。ノブひとつで原音を完全に消し、ディレイ音だけを送り出せるということです。この振り幅は、パラレルループを組んでいる場合や、レコーディングで残響成分を別トラックに立てたい場合にそのまま武器になります。3ノブの単機能ペダルとしては見落とされがちな長所です。
REGEN|繰り返しの回数
右へ回すほど繰り返しが増えます。回しきる手前から減衰が長く尾を引きはじめ、さらに上げれば自己発振の領域に入ります。飛び道具としては面白い挙動ですが、アンサンブルに置くなら中央よりやや低めが収まりどころです。
MOD|繰り返しだけを揺らす
押し込むとディレイ音が揺れはじめ、青いLEDが灯ります。モジュレーションスピードは0.2Hzから2.2Hzまで。ゆったりしたうねりから、コーラスに近いきらめきまで幅があります。原音にはいっさいかからず繰り返しだけが揺れるため、コードを伸ばすと音像が静かに広がっていきます。
揺れの深さと速さは内部で追い込める
筐体の内部には、モジュレーションのWidth(深さ)とSpeed(速さ)を決めるトリマーが仕込まれており、2mmのマイナスドライバーで調整できます。標準の揺れが強すぎる、あるいは物足りないと感じたときの逃げ道がここにあります。
ただし筐体を開ける作業です。保証や修理対応の扱いは購入店・代理店に確認したうえで、自己責任で行ってください。基板に手を入れる以上、静電気やドライバーの当たりにも注意が必要です。
公式マニュアルが示す4つのセッティング
M169のマニュアルには、開発元によるセッティング例が4つ、図で掲載されています。名称を並べるだけでも、このペダルがどんな音楽を想定して作られたのかが伝わってきます。
- MEMPHIS SLAP|ディレイタイムを短く詰めて跳ねさせる、ロカビリーやサザンロックのスラップバック
- GOLDEN AGE|古い録音物のように、ほどよく後ろへ引いた空気感
- SKANK’N DUB|REGENを深く取って反復させる、ダブの手法
- GUITAR GOD|ディレイタイムを長めに取り、リードを大きく響かせる設定
具体的なノブ位置は付属マニュアルの図をご覧ください。音作りに行き詰まったら、この4つを順になぞってみると、自分がこのペダルに何を期待していたのかが見えてきます。
M169の主なスペック
| 方式 | 100%アナログ/BBD(バケツリレー素子) |
| ディレイタイム | 20ms〜600ms |
| モジュレーションスピード | 0.2Hz〜2.2Hz |
| コントロール | DELAY/MIX/REGEN/MODスイッチ(内部トリマー:Width・Speed) |
| 入力インピーダンス | 1MΩ |
| 出力インピーダンス | 1kΩ |
| 最大入力レベル | +5dBV(500Hz) |
| 最大出力レベル | +8dBV |
| ノイズフロア | MIX最大時 -96dBV/MIX最小時 -104dBV |
| ディレイ歪率 | 1%未満(1kHz/-5dBV入力時) |
| ノイズリダクション | 2:1レシオ |
| バイパス | トゥルーハードワイヤバイパス |
| 消費電流 | 26mA |
| 電源 | 9V DC/9V電池(裏板を外して装着) |
| 発売年 | 2008年 |
Carbon Copyシリーズ、どれを選ぶか
M169の登場以降、MXRはCarbon Copyの名を冠したモデルを複数展開してきました。それぞれ狙いが明確に分かれているため、選択の基準もはっきりしています。
| モデル | 特徴 | 選ぶ基準 |
|---|---|---|
| M169 Carbon Copy | 最長600ms。3ノブ+MODスイッチ。暗くまろやかな繰り返し | アナログディレイの基準となる一台がほしい |
| M299 Carbon Copy Mini | ミニ筐体。M169と同じモジュレーション部に加え、高域を持ち上げるBrightスイッチを搭載 | ボードの面積を削りたい/明るい繰り返しも選べるようにしたい |
| M292 Carbon Copy Deluxe | タップテンポで最長1.2秒。付点8分・8分・3連・16分の符割選択、Speed/Widthを表面に配置、プリセット、エクスプレッションジャック、内部にLine/Instrumentレベル切替とDry Killスイッチ | 曲のテンポに正確に合わせたい/FXループやレコーディングで使う |
| M269SE Carbon Copy Bright | 600ms・モジュレーション搭載という構成はそのままに、明るく輪郭のある繰り返しへ調整 | ディレイ音をはっきり聴かせたい |
繰り返しが暗すぎるかもしれないという不安が少しでもあるなら、BrightスイッチのあるM299か、両方の音色を切り替えられるM292のほうが安全です。逆に、その暗さを求めてここへ来たのであれば、M169が最短距離になります。
応えてくれること、応えられないこと
単機能のペダルは、得意なことと不得意なことの境目が明快です。M169の場合、その線はおおむね次のあたりに引かれています。
M169が応えてくれること
- ディレイを効果としてではなく、音に奥行きを与える下地として使う
- ノブを3つ回せば音が決まる、判断の余地が少ない機材を求めている
- リードやアルペジオで、原音の輪郭を残したまま空間だけを足したい
- アナログ回路特有の減衰の質感に価値を見ている
- ボードの中でディレイに割ける面積が限られている
M169では応えられないこと
- 曲のテンポに符割をきっちり合わせる(タップテンポも符割設定もありません)
- 1秒を超えるディレイタイムを使う(最長600msです)
- 繰り返しをはっきり前に出して聴かせる(Brightスイッチを持つモデルの領分です)
- 曲ごとに設定を呼び出す(プリセット機能はありません)
- 複数のディレイタイプを1台でまかなう
よくある質問
- 電池でも動きますか?
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動きます。裏板を外して9V電池を入れる方式です。アダプターならDunlop ECB003/ECB003EU、あるいはDC Brickなどのパワーサプライに対応します。消費電流は26mAと軽いため、既存のパワーサプライに空きが一つあれば足ります。
- アンプのセンド/リターンに入れても大丈夫ですか?
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M169の最大入力レベルは+5dBV(500Hz)で、ラインレベル用の切り替えは備えていません。ギターを直接受ける前提のペダルです。ループでの使用を主目的にするなら、内部にLine/Instrumentレベル切替を持つM292 Carbon Copy Deluxeが確実です。
- モジュレーションの揺れが強い、または弱いと感じたら調整できますか?
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できます。筐体内部にWidth(深さ)とSpeed(速さ)のトリマーがあり、2mmのマイナスドライバーで追い込めます。ただし開封を伴うため、保証の扱いを購入店や代理店に確認したうえで、自己責任で行ってください。
- ディレイ音だけを出すことはできますか?
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できます。MIXノブを右へ回しきると100%ウェット、左へ絞りきると100%ドライになります。パラレルループを組んでいる場合や、レコーディングで残響成分だけを扱いたい場面で活きる仕様です。
- トゥルーバイパスですか?
-
トゥルーハードワイヤバイパスです。オフのときは信号が回路を通らないため、音への影響がありません。その一方でバッファとしては働かないので、ケーブルが長い環境やペダル数の多いボードでは、バッファをどこに置くかを別途考えておく必要があります。
- MiniやDeluxeとどれくらい音が違いますか?
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M299 MiniはM169と同じモジュレーション部を持ちつつ、高域を持ち上げるBrightスイッチが加わったモデルです。M292 Deluxeは、M169の暗くまろやかな音色とBright版の明るい音色をスイッチで行き来できます。M169は暗い側に固定されている、と捉えると違いがつかめます。
まとめ
Carbon Copyで決められることは多くありません。600msのどこに合わせるか、どれだけ繰り返すか、揺らすか揺らさないか。それだけです。
それでも2008年から現行品であり続けているのは、その一つの音が使い減りしないからでしょう。繰り返しが原音の後ろへ静かに引くために、どんなフレーズに重ねても濁らない。オンにしたまま一曲弾き切っていた、という鳴り方をします。派手さで手に取られる機材ではなく、一度ボードに載せたきり何年も動かなくなる種類の機材です。
繰り返しをはっきり聴かせたい人、テンポに合わせて符割を切り替えたい人には、同じシリーズにより適したモデルがあります。それでも、弾いていて気持ちのいい空気がほしいという一点で選ぶなら、この一台はいまだに有力な答えです。
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