Eventide H90 Harmonizerは、スタジオ機器メーカーとして半世紀の歴史を持つEventideが、そのノウハウを一台のペダルに凝縮したマルチエフェクターです。フラッグシップのラック機H9000と同系のARMベース・アーキテクチャを採用し、豊富なアルゴリズムと柔軟なI/O・ルーティングを備えています。ギターはもちろん、ベースやシンセ、ボーカルまで幅広く対応し、リグの中心に据えられる設計です。
歴史を継承し、拡張し続けるアルゴリズム群
H9 Maxの52種+新規22種、計74アルゴリズム
H90は、H9 Max Harmonizerの全52アルゴリズムを機能強化のうえ継承し、さらに新規アルゴリズムを追加した構成になっています。発売当初は62アルゴリズムでしたが、ファームウェアのアップデートによって拡張が重ねられ、現在は新規22種を含む計74アルゴリズムが収録されています(本記事執筆時点。最新の収録数はメーカー公式サイトをご確認ください)。
その中核を担うのが、Eventide独自のSIFT(Spectral Instantaneous Frequency Tracking)テクノロジーです。低レイテンシーかつ安定したポリフォニック・ピッチシフトを実現し、和音をそのままシフトさせるといった処理を可能にしています。
H90ならではの新規アルゴリズム
新規アルゴリズムには、SIFTを用いて和音をピッチシフトする「Polyphony」、1つのコードから3声を生成し最大3オクターブにわたる4種類のアルペジオを作り出す「Prism Shift」、Uni-Vibeをステレオ化しエンベロープフォロワーを加えた「Even-Vibe」などが並びます。
ディレイ系では、ヴィンテージの4ヘッド・テープディレイを再現した「Head Space」、モジュレーションやLoFiフレーバーを持つバケツリレー式ディレイ「Bouquet Delay」を搭載。さらに、ピッチワープ機能を備えたハイパーモジュレート・リバーブ「Wormhole」、緑色の定番ペダルを思わせる2段直列オーバードライブ「WeedWacker」も加わっています。近年のアップデートでは、Cosmic Web / Glitch / GrainMod / Stutterというグラニュラー系4種や、VocalTune・VocalShift・VocalShiftMIDI・Quadravox+から成るボーカル向けの「Harmonizer+」も追加されました。
ラック機の名作をペダルサイズで
Eventideのラックマウント機からは、3つのアルゴリズムが移植されています。1971年に登場した世界初のスタジオ・フェイザーで、Led Zeppelin「Kashmir」での使用でも知られる「Instant Phaser Mk II」。世界初のスタジオ・フランジャーを再現した「Instant Flanger Mk II」。そして、Room/Stereo Room/Hi-density plateを収めた「SP2016 Reverb」です。加えて、H9 Max由来のアルゴリズムにも、dot9シリーズやプラグインでのみ利用できた機能が取り込まれています。
デュアルアルゴリズム設計と柔軟なルーティング
H90の特徴的な点が、1つのプログラムに2つのアルゴリズムを組み合わせられるデュアルアルゴリズム設計です。プログラム間のトゥルー・スピルオーバーに対応し、シリーズ/パラレルのルーティングを選択できます。2つのモノ・インサートは信号経路上の任意の位置に配置でき、まとめて1つのステレオ・インサートとして扱うことも可能です。インストゥルメント/ラインレベルの切り替えとゲインコントロールを備えるため、キーボードやラインレベル機器との接続にも対応します。デュアルモードでは4ケーブルメソッドでの接続や、2つの独立したステレオ信号を同時に処理する使い方もできます。
ライブでの操作性を支えるインターフェース
フロントパネルとフットスイッチの割り当て
フロントパネルは、5つのプッシュノブ、7つのLEDボタン、高解像度の有機ELディスプレイで構成されています。左右の大型ノブがSELECT/PERFORMの入口となり、SELECTノブの長押しでBANK表示に切り替わります。中央の3つのクイックノブは、パラメーターの調整と割り当てを担当します。
フットスイッチはP/A/Bの3つで、PERFORMモードでは2ページ分の割り当てを持てるため、実質6つ分の機能をマッピングできます。タップテンポ、アクティブ/バイパス、モメンタリー、インサートのバイパスといった基本機能に加え、リバーブのフリーズ、ピッチフレックス、ディレイのリピートなど、アルゴリズム固有のパラメーターも足元から操作可能です。さらに3つのHotSwitchを使えば、複数パラメーターの設定をスナップショットのように呼び出せます(同時にオンにできるのは1つ)。
外部コントロールも充実しており、エクスプレッションペダル、最大3ボタンのAUXスイッチ、CV信号に対応する入力を2系統装備。MIDI IN/OUT・THRUによる制御にも対応しています。
プログラムとプレイリストの管理
H90には数百のファクトリープログラムが収録されており、SELECTモードとBANKモードのどちらからでも呼び出せます。SELECTモードではプレイリスト全体を順番にスクロールでき、BANKモードでは1バンクにつき3つのプログラムが並ぶ形で表示されるため、フットスイッチで即座に切り替えられます。セットリストに合わせてプレイリストを組み替えておけば、曲順どおりにサウンドを呼び出す運用も可能です。
H90 Controlによるエディット環境
専用アプリ「H90 Control」を使えば、Mac/Windows/iPadからプログラムやプリセットの管理、MIDIマッピング、ユーザーリストの入出力、ファームウェアのアップデートまで行えます。接続はBluetoothとUSB-Cのどちらにも対応。内蔵チューナーも備わっているため、単体での使用も快適です。

