ペダルボードにエフェクターを1台足すたび、なんとなく音の芯が痩せていく。ライブで長いシールドを引き回した日だけ、リハーサルで作り込んだはずの抜けが出ない。原因を特定しきれないまま、こうした違和感と付き合っているギタリストは少なくありません。その多くは、ピックアップから出た微弱な信号が、ケーブルや接続機器の負荷に耐えきれず形を崩していることに起因します。ギター/ベース用バッファーアンプ「CONISIS ELEGANT BEAST MKI BA001」は、その一番はじまりの地点に置くために設計された1台です。
ディスクリート・オペアンプという選択
BA001を手掛けるのは、神奈川県横浜市に拠点を置く株式会社コニシス研究所です。1981年の創業以来、プロオーディオ機器や放送機器、ハイエンドオーディオ機器の設計製作を手掛け、NHKの特注マトリクスミキサーやクラウンレコーディングスタジオ向けのマスタリンググレード・プリアンプの設計・製作といった実績を重ねてきた、いわば業務用機器の設計屋です。
BA001の心臓部にあるのは、ディスクリート構成によるオペアンプ回路です。現代の音響機器の増幅段は、その大半がICオペアンプで構成されています。小型で特性がそろい、扱いやすい。一方でディスクリート、つまりトランジスタなどの個別部品を組み上げる構成は、サイズも手間もコストもかかります。コニシスがこの構成を採用してきたのは、ハイエンドオーディオとマスタリング用のカスタム機という、ごく限られた領域でした。
BA001は、そのマスタリングルーム用カスタムアンプやハイエンドオーディオ機器に用いてきたディスクリート・オペアンプと、基本的に同じ構成をギターの足元に持ち込んだ製品です。長年の研究で到達した回路と部品を採用しており、同社はのちにこの回路をオーバードライブ「Elegant Cruncher GA001」にも展開しています。ペダルの内側で起きていることは、スタジオの心臓部で起きていることと地続きになっています。
バッファーは、信号に対して何をしているのか
バッファーアンプとは、音の大きさ(電圧)を変えずに電流だけを増幅するアンプです。音量が変わらないので、一見すると何もしていないように見えます。しかし実際には、信号の「体力」を根本から作り替えています。
エレキギターのピックアップは、弦という磁性体がコイルと磁石の上で振動することで電気を起こしています。自然起電力なので、電圧はそこそこ取れても、電流はほとんど出てきません。この超微弱な信号にとっては、接続される機材はもちろん、それをつなぐケーブルさえ「背負う荷物」になります。荷物が重ければ、あるいはケーブルが長くなれば、信号は形を保てなくなる。エフェクターを増やしたときやシールドを長くしたときに感じる違和感の正体は、多くの場合ここにあります。
BA001は、入力の音の大きさを変えないまま、出力の電流を3万倍近くまで増幅します。低域から高域まで隔てなく、です。その結果、後段に接続されるケーブルやエフェクター、アンプの入力負荷にかかわらず、指や弦のニュアンスを損なわずに信号を送り出せる状態が作られます。「エレガント(上品)でありながら野獣(ビースト)の豪快さを兼ね備える」という命名は、この設計が目指した方向をそのまま表したものです。
1MΩと33Ω、この数字が意味すること
BA001の入力インピーダンスは1MΩ、出力インピーダンスは33Ωです。スペック表では素通りしがちな2つの数字ですが、ここにこの機材の性格が凝縮されています。
入力インピーダンスは、ピックアップから見たときの「荷物の重さ」にあたります。数字が大きいほど荷物としては軽く、1MΩは1,000,000Ω。ピックアップが出力する微弱な信号を崩さずに受け止められる軽さです。ピックアップ自身も、背負う荷物が軽いほど自由に振る舞えます。
出力インピーダンスは逆に、次につながる荷物を動かす力を表します。こちらは数字が小さいほど力が強い。33Ωであれば、長いケーブルを介しても、インピーダンスの低い機材が接続されても、波形は崩れません。
BA001は実際にはこの数値よりも強い駆動力を持っています。33Ωという表記になっているのは、出力がショートした際のトラブルを減らすため、出力に33Ωの保護抵抗を入れているためです。カタログスペックの数字が、実力そのものではなく、実用上の安全設計を含んだ値であるという点は、業務用機器を長く手掛けてきたメーカーらしい部分です。
なお、バッファーの効果を最大限に引き出すという意味では、ギターからできるだけ近い位置、そして間をつなぐケーブルは良質なものを短く、というのが基本的な考え方になります。信号が痩せる前に受け止める、という発想の製品だからです。
Elegant Beastを核に広がるコニシスの楽器用ライン
BA001が同社の楽器用製品群の中でどんな位置にあるのかは、派生モデルの顔ぶれを見るとよくわかります。
- BLACK MESSIAH II BA004:BA001の能力を受け継ぎ、アンプ機能を追加した大村孝佳シグネチャーモデル。ボリュームノブを左に回しきった状態ではバッファーとして、右に回すと2〜10倍の増幅が加わります
- ELEGANT BEAST MOD VOLUME PEDAL BA005:Elegant Beastの回路をボリュームペダルに内蔵したモデル。ギタリストだけでなく、ベーシストやアコースティックギター奏者にも向けて案内されています
- Elegant Cruncher GA001 Model I:Elegant Beastで採用したディスクリートオペアンプ回路を改めて搭載したオーバードライブ。ドライブ素子にゲルマニウムダイオードとLEDを使用
シグネチャーモデルもボリュームペダルもオーバードライブも、出発点はBA001の回路です。単体のバッファーという枠を超えて、同社の楽器用製品の基幹となっている1台だと言えます。
主な仕様
- サイズ:D100 × W70 × H32.5(mm)※突起部分含まず
- 入力インピーダンス:1MΩ
- 出力インピーダンス:33Ω
- 動作電源:DC9V または 006Pタイプ9V電池
- 回路構成:ディスクリート・オペアンプ
BA001は受注生産品として案内されており、メーカー直営のウェブショップで在庫切れの際は予約・問い合わせの対応となります。流通量が多いモデルではないため、店頭で試す機会は限られます。
よくある質問
- バッファーを入れると音が変わってしまいませんか?
-
バッファーは音の大きさ(電圧)を変えずに電流だけを増幅する回路なので、音量やゲインが変化する類の機材ではありません。ただし信号がケーブルや後段機材の負荷で崩れにくくなるぶん、結果として耳に届く音の印象は変わります。「音を作る」のではなく「失われるはずだったものを残す」性格の機材だと考えるとイメージしやすいはずです。
- ベースやアコースティックギターでも使えますか?
-
BA001はメーカーの製品情報上、ギター用バッファー(ギターピックアップバッファー)として案内されているモデルです。ベースやアコースティックギターへの対応が明示されているのは、同じElegant Beastの回路を内蔵したボリュームペダルBA005のほうになります。使用楽器が決まっている場合は、購入前にメーカーへ問い合わせておくと確実です。
- 電池でも駆動できますか?
-
DC9Vのほか、006Pタイプの9V電池での動作にも対応しています。パワーサプライを組んだペダルボードでも、電池運用でも使えます。
- 接続位置はどこがベストですか?
-
ピックアップから出た信号が痩せる前に受け止めるという設計思想の機材なので、ギターからできるだけ近い位置、つまり信号経路の最前段が基本になります。ギターとBA001をつなぐケーブルも、良質なものをできるだけ短く使うほうが理にかなっています。
- 出力インピーダンス33Ωは低すぎませんか?
-
出力インピーダンスは数値が小さいほど後段を駆動する力が強く、33Ωは通常のエフェクターやアンプに接続するうえで問題のない値です。BA001は本来これより強い駆動力を持っており、出力ショート時のトラブルを防ぐ保護抵抗を入れた結果としてこの数値になっています。
まとめ
CONISIS ELEGANT BEAST MKI BA001は、マスタリングルーム用のカスタムアンプやハイエンドオーディオ機器と基本的に同じディスクリート・オペアンプ構成を、ギターの直後という一番効く場所に持ち込んだバッファーアンプです。入力1MΩでピックアップの負担を極力減らし、電流を3万倍近くまで増幅して、そこから先の長いケーブルや多数のエフェクターに耐えられる信号を送り出す。役割としてはきわめてシンプルで、だからこそ回路と部品の質がそのまま結果に出る種類の機材でもあります。ペダルボードの規模が大きくなってきた人、モデリング機材やラインへの送り出しで音の情報量を落としたくない人にとって、検討する価値のある選択肢です。

