JHS PEDALS JHSペダル / HARD DRIVE BLACK 【ディストーション】

ハイゲインのディストーションでよくあるのが、Driveを上げていくほど中域が痩せて、バンドで鳴らすと音が奥に引っ込んでしまう現象です。かといって中域を戻そうとすると、今度は輪郭がぼやけて団子になる。JHS Hard Driveは、ブーストする中域の「周波数そのもの」を選べるスイープ式ミッドEQを備えていて、この問題に正面から向き合えるハイゲイン機です。

目次

JHSの15年で初めての、どこにも似ていないディストーション

JHS Pedalsは、Angry CharlieのJCM800的アプローチや、PackRatに代表されるクラシック回路の再解釈で知られてきたブランドです。そのJHSにとってHard Driveは、創業から15年の歴史の中で初めて、過去の回路や定番のトポロジーに一切基づかずに設計されたフルスケールのモダン・ディストーションになります。

発端は2016年。Josh Scottが、90年代から2000年代のハイゲイン・ディストーション——ポスト・グランジのオルタナティブ・ロックを形づくったあのサウンド——をカバーする回路を作りたいと考えたところから始まりました。まずはペダルを調べ、次にアンプを研究し、定番の回路構成を一通り辿ったうえで、方向を大きく変えて一から作り直す。そうして8年をかけて完成したのがHard Driveです。

Cliff Smithが遺した最後の設計

Hard Driveは、JHSの元チーフエンジニアであるCliff Smithが手がけた最後の設計作品でもあります。プロトタイプと設計が固まったのは、彼が2021年に亡くなるわずか数週間前のことでした。

Josh Scottは、Cliffがこの回路を「mutt(雑種)」と呼んでいたと語っています。何かのクローンではなく、無数のインスピレーションとアイデアが混ざり合ったオリジナル——かつて二人で作り上げたColour Boxと同じ性質のものだ、と。週末も夜も回路をいじり続け、面白い発見があるたびにメッセージを送ってきたというCliffにとって、複雑なゲインステージングと、ソリッドステート回路を真空管アンプのように反応させることは何より好きなテーマだったといいます。長く趣味として温められた実験が、最終的に製品として世に出たのがこのペダルです。

カスケードゲイン → ハードリミッター → クラスABという構成

Hard Driveの信号経路は、まず複数のゲインステージをカスケード接続して大量の歪みを作り出すところから始まります。そこで生まれた信号をハードリミッティング回路で押さえ込み、続くクラスABアンプ・セクションへ送る、という流れです。

ハイゲイン系ペダルの多くがダイオードによるクリッピングで歪みのキャラクターを決めるのに対し、多段ゲイン+ハードリミットという組み立ては、密度が高く芯の詰まった歪み方につながります。そしてクラスABアンプ・セクションが、スイープ可能なミッドレンジEQとBaxandall型のBass/Trebleを駆動します。Baxandall型は、センターを基準に低域・高域をシェルビングでブースト/カットする方式で、ペダルの歪み用トーン回路としては比較的余裕のある効き方をするのが特徴です。

結果として得られるレンジは、じりじりとしたチューブアンプ・クランチから、ステージでもスタジオのミックスでも埋もれない「壁」のようなディストーションまで。JHSがこれまでリリースしてきたどのオーバードライブ/ディストーションよりも、深いところまで踏み込める設計です。

6つのコントロール

Volume、Drive、Bass、Middle、Treble、Mid Freqの6ノブ構成です。

コントロール役割
Volume全体の出力音量。右に回すほど大きくなります
Drive歪みの量。右に回すほど深くなります
Bass低域のレベル。12時でフラット、左でカット、右でブースト
Middle中域のレベル。12時でフラット、左でスクープ、右でブースト
Treble高域のレベル。12時でフラット、左でカット、右でブースト
Mid FreqMiddleがブースト/スクープする中域の周波数を選択

このペダルの性格を決めているのが、MiddleとMid Freqの組み合わせです。Middleが「どれだけ中域を動かすか」を決め、Mid Freqが「どこの中域を動かすか」を決める。この2つがセットで働くことで、いわゆる可変ミッドEQとして機能します。

Mid Freqを低めに設定してMiddleを上げれば、ローミッドに厚みが出てリフが太くなります。逆にMid Freqを高めに振れば、上の中域が持ち上がってリードが前に出てきます。Middleを絞ってスクープすれば、その帯域だけをピンポイントで抜くことも可能です。固定周波数の3バンドEQを持つディストーションだと「ミッドを上げると同時に濁る」場面が出てきますが、帯域を選べるぶん、アンプやギターとの相性に合わせて逃げ場を作れるのが強みです。

スイッチングはサイレント・ソフトタッチ式で、バイパス時はバッファードバイパスとして動作します。踏み替え時のノイズがなく、長いケーブルやボード後段でも高域の落ち込みを抑えられる仕様です。

選ぶ前に押さえておきたいポイント

消費電流78mAはパワーサプライを選びます

Hard Driveの消費電流は78mA。一般的なアナログ歪みペダルが5〜20mA程度であることを考えると、かなり大きい数値です。9V DCセンターマイナスという電源仕様自体は標準的ですが、各アウトの供給電流が100mA前後に設定されているパワーサプライでは、1系統をこのペダルだけで占有することになります。すでにボードが埋まっている場合は、追加前に各アウトの容量を確認しておくと安心です。

バッファードバイパスである点

トゥルーバイパスではないため、ボード内にファズを置いている場合は接続順に注意が必要です。特にヴィンテージ系のゲルマニウム・ファズは入力インピーダンスの影響を受けやすく、前段にバッファーがあると音が変わることがあります。Hard Driveより前にファズを配置するか、ファズ側を先頭に置く構成が無難です。

BLACKとTANの2色

Hard DriveにはBLACKとTANの2色があります。回路・仕様は共通で、違いは筐体のカラーリングのみです。ハードディスクをモチーフにしたグラフィックはどちらにも入っており、BLACKはボード全体を引き締める方向、TANはヴィンテージ機材と並べたときに馴染む方向、という選び方になります。

スペック

タイプディストーション
コントロールVolume、Drive、Bass、Middle、Treble、Mid Freq
回路構成カスケード・ゲインステージ+ハードリミッティング回路+クラスABアンプ・セクション
EQスイープ可能なミッドレンジEQ、Baxandall型Bass/Treble
スイッチングサイレント・ソフトタッチ・スイッチング
バイパスバッファードバイパス
入出力INPUT、OUTPUT(トップジャック)
電源9V DC センターマイナス
消費電流78mA
サイズ2.6″ × 4.8″ × 1.6″(約66 × 122 × 41mm)
カラーBLACK / TAN

こんな人に向いています

  • ハイゲインを深く歪ませたうえで、バンドアンサンブルの中で音を通したい方
  • 固定周波数のミッドEQでは狙った帯域に届かず、もどかしさを感じてきた方
  • 90年代〜2000年代のオルタナティブ・ロックやポスト・グランジ系のサウンドを軸にしている方
  • アンプのクリーンチャンネルを土台に、ペダルだけで歪みを完結させたい方

一方で、軽いクランチやローゲインのオーバードライブを主目的にするなら、JHSの他のラインナップのほうが素直に狙いに合います。Hard Driveはあくまでハイゲイン側に重心を置いた設計です。

よくある質問

電池で駆動できますか?

JHSが案内しているのは9V DCセンターマイナスの外部電源のみです。消費電流が78mAと大きいため、実用的な運用としてはパワーサプライまたはACアダプターが前提と考えてください。

手持ちのパワーサプライで使えますか?

9V DCセンターマイナスで、そのアウトが78mA以上を安定して供給できれば使用できます。アイソレート電源であれば1アウトを専有させる形が確実です。デイジーチェーンで他のペダルと共有する場合は、合計消費電流がサプライの上限を超えないか確認してください。

トゥルーバイパスですか?

バッファードバイパスです。スイッチングはサイレント・ソフトタッチ式で、踏み替え時のクリックノイズが発生しません。ゲルマニウム系ファズを併用する場合は、Hard Driveより前段にファズを置く接続順が無難です。

BLACKとTANで音は違いますか?

回路・仕様は同一で、違いは筐体のカラーのみです。サウンドに差はありません。

Angry Charlieとはどう違いますか?

Angry CharlieはMarshall JCM800系のアンプライクな歪みを狙った3バンドEQ搭載モデルで、既存アンプの回路的アプローチを踏まえた設計です。対してHard Driveは既存の回路やトポロジーに基づかないオリジナル設計で、カスケードゲイン+ハードリミッターによる密度の高いモダンハイゲインと、周波数を選べるミッドEQを備えます。ゲインレンジもHard Driveのほうが深いところまで踏み込めます。

アンプの歪みチャンネルに重ねて使えますか?

可能ですが、Hard Drive単体でハイゲインまで到達する設計のため、クリーンチャンネルに挿して歪みをペダル側で完結させる使い方が本領です。歪みチャンネルに重ねる場合はDriveを浅めにし、Mid Freqでアンプ側と帯域が被らない位置を探すと整理しやすくなります。

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この記事を書いた人

13歳よりエレキギターを始め、学生時代はバンド活動に明け暮れる。音響機器やPAの基礎を専門学校で学びつつ、18歳頃にアルバイトとして始めた大手楽器店にて楽器の買い取り業務を担当。約10年間にわたり音楽機材の買取査定、販売・リペアなどに携わり、数多くのエフェクターに触れる。楽器店退職後、2009年よりエフェクター専門サイト『EFFECTOR COLLECTION BOX』の運営をスタート。

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