ボードの容量が足りなくなったとき、最初に降ろされるのはたいていワウです。嫌いになったからではありません。曲の中で踏むのはせいぜい数小節、それなのに奥行き250mm、重さ1.7kg。一台で歪みとディレイを合わせたくらいの場所を占める。この割に合わなさが、決断を鈍らせます。
CBM95 Cry Baby Mini Wahは、その計算を変えるために作られました。奥行きは132mm、重さは440g。それでいてロッカーの可動距離は標準サイズのCry Babyと同じです。
ワウの音は、山の位置で決まる
ワウペダルの中身は、特定の周波数を持ち上げる共振回路です。周波数特性の上に山がひとつ立っていて、ロッカーを踏み込むとその山が高いほうへ移動する。かかとを下げれば低いほうへ戻る。あの「ワウワウ」は、山が行き来する音です。
CBM95の場合、山が立つ位置はヒールダウンで350Hz〜450Hz、トゥダウンで1.5kHz〜2.5kHz。ギターの音域でいえば、低音弦の胴鳴りあたりから、ピッキングの輪郭が集まる高域までを一往復することになります。この山を作っているのがFaselインダクターで、CBM95にはクラシックな赤いFaselが載っています。
そして重要なのが、この山の可動範囲そのものを移動させる仕組みが備わっていることです。
3つの周波数レンジを持つ
底板の内側には3ポジションのVOICINGスイッチがあり、H・M・Lで周波数レンジが切り替わります。同じ踏み込み方をしても、山が動く帯域が変わる。結果として音の表情が別物になります。
H|GCB95と同じサウンド
工場出荷時の設定です。標準的なCry BabyであるGCB95と同じ音で、多くの人が「ワウの音」として思い浮かべるのはこのレンジになります。抜けが良く、バンドの中でも埋もれません。迷ったらここから始めるのが順当です。
M|中域に焦点を合わせたヴィンテージ寄り
山の可動域が中域寄りに移り、より古典的な鳴り方になります。高域側の派手さが引くぶん、カッティングに重ねても耳に刺さらず、歪みの前段に置いたときの暴れ方も穏やかです。
L|Jimi Hendrix Wahと同じ低いレンジ
ここは誤解されやすいところです。Lは低域をブーストする設定ではなく、DunlopのJimi Hendrix Wahで採用されている低い周波数レンジそのもの。全体が暗く沈み、太い歪みと組み合わせたときの説得力が変わります。
Cry Babyの中でも支持の厚い3つの声が、この筐体に入っています。ワウを一台に絞りたいなら、この幅は効きます。
切替は底板を外して行う
このスイッチは外から触れません。変更のたびに底板を開ける必要があるため、曲ごとに持ち替える使い方はできません。一度決めたら固定する部品と考えてください。ライブ中に踏み間違える余地がない、という見方もできます。
踏み込み幅は削られていない
ミニワウで真っ先に疑われるのが操作感です。かかとからつま先までの距離がそのまま山の移動距離になる以上、可動域が浅ければワウの表情は痩せます。
CBM95の物理的なスウィープレンジは、標準サイズのCry Babyと同一です。ロッカーは前後どちらへも同じだけ動きます。奥行きを詰めたぶんの帳尻は、可動域ではなく筐体側で合わせてあります。
| CBM95 | GCB95(標準サイズ) | |
|---|---|---|
| 幅 | 80mm | 100mm |
| 奥行き | 132mm | 250mm |
| 高さ | 63mm | 63mm |
| 重量 | 約440g | 約1.7kg |
※寸法・重量は国内代理店発表値です。
高さだけが据え置かれているのは、踏み込みの角度を確保するためです。削られたのは主に奥行きで、重量は4分の1。ボードに空く余白も、ケースを担いだときの肩の負担も、この差がそのまま出ます。
ロッカーの重さを自分に合わせる
ヒール側、ロッカーの下にトルククラッチが仕込まれています。時計回りで抵抗が増して重くなり、反時計回りで軽くなる。調整用のレンチが本体に付属します。
軽くして素早く振りたい人もいれば、重くして半止めの位置を安定させたい人もいます。ワウは足で弾く楽器のようなもので、ここが合っていないと思ったところで止まりません。底板を開ける必要がないので、リハーサルの合間にでも詰められます。
ポットの作りに、小型化のしわ寄せはない
ワウで最初に音を上げるのはポットです。踏むたびに抵抗体の上をワイパーが擦るため、ガリが出る、特定の位置で音が飛ぶ。長く使っている人ほど覚えのある症状だと思います。
CBM95のポットは、この筐体に収めるために新規に起こされた専用設計です。オリジナルのCry Babyが持つテーパー特性を残したまま、300万サイクルを超える寿命とノイズの低減を狙い、ワイパーと抵抗体に粉塵が入らないよう密閉されています。
ロッカーとの連結にはラック&ピニオンギアが使われ、両者の回転が接触圧のばらつきなく一定の関係で結ばれます。踏み込みの途中で急に山の動きが速くなる、といった段付きが出にくい構造です。安価なミニペダルにありがちな作りではありません。
CBM95の主なスペック
| インダクター | Fasel インダクター(レッド) |
| ボイシング | 内部3ポジションスイッチ(H=GCB95/M=ヴィンテージ/L=Jimi Hendrix Wahのレンジ) |
| 共振周波数 | ヒールダウン時 350Hz〜450Hz/トゥダウン時 1.5kHz〜2.5kHz |
| 入力インピーダンス | 800kΩ |
| 出力インピーダンス | 10kΩ |
| 最大入力レベル | -8.0dBV |
| 最大出力レベル | +10dBV |
| 最大ゲイン | ヒールダウン時 +19.5dB/トゥダウン時 +19.0dB |
| ノイズフロア | ヒールダウン時 -98dBV/トゥダウン時 -89dBV |
| バイパス | トゥルーハードワイヤバイパス |
| 消費電流 | 900µA |
| 電源 | 9V DC/9V電池(底面からアクセス) |
| 寸法・重量 | W80×D132×H63mm/約440g(国内代理店発表値) |
| 発売年 | 2015年 |
Cry Baby Miniシリーズの中での位置
ミニ筐体にはCBM95のほかに2機種があります。それぞれ元にしているモデルが違うため、選ぶ基準もはっきりしています。
| モデル | 元になったモデル | 選ぶ基準 |
|---|---|---|
| CBM95 Cry Baby Mini Wah | GCB95ほか3ボイシング | ギター用の定番ワウをそのまま小型化したい |
| CBM105Q Cry Baby Mini Bass Wah | 105Q Cry Baby Bass Wah | ベース、またはダウンチューニングや多弦ギターで低域を保ちたい |
| CBM535Q Cry Baby Mini 535Q Wah | 535Q Cry Baby Multi-Wah | ボリュームやQを外部から追い込みたい |
音作りのつまみを表に出したいならCBM535Q、低域の扱いが要ならCBM105Q。ワウらしいワウを省スペースで、という条件ではCBM95が最短距離になります。
この一台で足りるかどうか
CBM95が引き受けてくれるのは、次のような場面です。
- ボードの奥行きが足りず、ワウの導入を見送ってきた
- 踏み込み幅を犠牲にせず省スペース化したい
- 移動の多い環境で、機材の重量を削りたい
- 標準・ヴィンテージ・ヘンドリックスの3系統から自分の音を決めて使い続けたい
- ロッカーの重さを自分の足に合わせたい
反対に、次の条件が外せないなら別の機種を見たほうが早道です。
- 曲ごとにボイシングを切り替える(底板の開閉が必要です)
- ボリュームやQをその場で調整する(CBM535Qの領分です)
- ベースの低域を保ったままワウをかける(CBM105Qが適しています)
- 踏まずに自動でバイパスへ戻す(オートリターン機構はありません)
- 標準サイズと同等の設置安定感を得る(軽いぶん、固定は考えておきたいところです)
よくある質問
- 小さくなったぶん、踏み込み幅は狭くなっていませんか?
-
物理的なスウィープレンジは標準サイズのCry Babyと同一です。ロッカーが前後どちらへも同じだけ動くため、コントロールできる量も変わりません。小型化されたのは奥行きと幅で、可動域ではありません。
- 電池でも動きますか?
-
動きます。9V電池はペダル底面からアクセスします。アダプターならDunlop ECB003/ECB003EU、あるいはDC Brickなどのパワーサプライに対応します。消費電流は900µAと非常に小さいため、既存のパワーサプライへの負担はほとんどありません。
- ボイシングは演奏中に切り替えられますか?
-
切り替えられません。VOICINGスイッチは底板の内側にあり、変更のたびに底板を外す必要があります。自分の音を決めたら固定して使う設計です。工場出荷時はH(GCB95と同じサウンド)に設定されています。
- ロッカーが軽すぎる、または重すぎると感じたら調整できますか?
-
できます。ヒール側のロッカー下にトルククラッチがあり、時計回りで抵抗が増し、反時計回りで軽くなります。調整用のレンチが本体に付属しますので、底板を開けずに好みの重さへ合わせられます。
- ONかOFFかは見て判断できますか?
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公式マニュアルにステータスLEDに関する記載はなく、ON/OFFはつま先側を踏み込んだときのクリック感で切り替える仕様です。暗いステージでの視認性を重視される場合は、購入前に販売店で実機をご確認ください。
- 標準サイズのCry Babyと音は違いますか?
-
H設定であればGCB95と同じサウンドです。クラシックな赤のFaselインダクターを搭載し、ポットもオリジナルのテーパー特性を保った専用設計になっています。加えてMとLの2つのレンジが選べるぶん、音色の幅はむしろ広がっています。
まとめ
小型化された機材には、どこかに必ずしわ寄せがあります。CBM95でそれを引き受けたのは筐体の奥行きと重量で、踏み込み幅も、Faselインダクターも、ポットのテーパー特性も残りました。3つの周波数レンジが選べるぶん、音色の幅は標準サイズを上回ります。
ワウは、踏んでいる時間の割に場所を取るペダルです。その割の合わなさが導入をためらわせてきたのなら、132mmと440gという数字は前提を変えてくれます。
ボイシングを曲ごとに動かしたい、ボリュームやQを表で追い込みたい。そうした要求には、同じミニ筐体に別の答えが用意されています。ワウらしいワウを省スペースで一台、という条件なら、CBM95はいまも素直な選択肢です。
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