RAT系のディストーションは、あの独特なザラつきとミッドの押し出しが唯一無二である一方、音色の幅という点では守備範囲が限られます。バッキングで気持ちよく決まるセッティングのままソロに入ると、バンドの中で埋もれてしまう。逆にソロ向けに追い込むと、今度はコードが飽和して潰れてしまう。RAT系を長く使っている人ほど、この「1台では届かない領域」に何度も突き当たっているはずです。
JAM Pedals Rattler mk2は、その課題に対してクリッピング特性の切り替えと専用のミッドブーストという2つの答えを用意したディストーションです。80年代初頭のディストーション・ボックスの系譜を引き継ぎながら、1台で複数のキャラクターを持たせる方向に踏み込んでいます。
JAM Pedals Rattler mk2とは
Rattlerは、ギリシャ・アテネのJAM Pedalsが手がけるディストーションです。同社のペダルはすべてハンドペイント仕上げで、1台ごとに絵柄の表情が微妙に異なります。Rattler mk2はそのRattlerの現行モデルにあたり、公式サイト上では単に「Rattler」として扱われています。
mk2で加わった変更点は、大きく分けて次の3つです。
- 対称/非対称クリッピングを切り替える2wayトグルスイッチの追加
- 2つ目のフットスイッチで操作するミッドブーストの搭載
- LM308に代わる、ディスクリート部品によるカスタムオペアンプの採用
加えて、クリックレスのフットスイッチと、電源投入時のオン/オフ状態を記憶する機能も備わりました。単なるマイナーチェンジではなく、操作系と回路の両方に手が入っています。
2つのクリッピングモードで歪みの性格が変わる
フロントパネルの小さなトグルスイッチで、クリッピング方式を2種類から選べます。
- 上:非対称クリッピング— オリジナルのRattlerが採用していた方式
- 下:対称クリッピング— mk2で新たに追加された方式
非対称クリッピングは波形の正側と負側を異なる深さでクリップさせるため、倍音の出方に偏りが生まれ、ざらついた質感とアタックの粒立ちが前に出ます。対称クリッピングは正負を均等にクリップさせるので、より整った、コンプレッション感のある歪みになります。
どちらが上位というものではなく、ピックアップやアンプとの相性で選ぶ性質のものです。出力の高いハムバッカーでは非対称側のエッジが活き、シングルコイルやP-90では対称側の厚みが効いてくる、といった使い分けが考えられます。ライブ中に切り替えるというより、その日の機材構成に合わせて決めておくタイプのスイッチです。
ミッドブーストは音量ではなく音色を動かす
左側のフットスイッチを踏むと、Rattlerの歪み回路の前段にミッドブーストが挿入されます。JAM Pedalsはこれをボリュームブーストではなくトーンエンハンサーとして位置づけており、実際に前段でミッドを持ち上げる設計上、後段の歪み回路への入力そのものが変化します。単純に音量が上がるのではなく、歪みの飽和の仕方とサステインの伸び方が変わるわけです。
バッキング用のセッティングを崩さずに、ソロでバンドサウンドの前に出るという使い方が素直です。ゲインを上げきらずに運用しておき、必要な場面だけブーストで押し上げる、という組み立てもできます。
工場出荷時はブーストの効きが最大に設定されている
ここは購入後に必ず知っておきたいポイントです。ブースト量を決める内部トリマーは、工場出荷時に最大値で設定されています。つまり箱から出した状態が、いちばん効きの強いセッティングです。
ソロで大きく変化をつけたい場合はそのままで問題ありませんが、もう少し控えめに、リフの押し出しを補強する程度に使いたい場合は、裏蓋を開けてトリマーを絞る作業が必要になります。ドライバー1本で完結する調整ですが、「思ったより変化が大きい」と感じたときの対処法として頭に入れておくと安心です。
LM308の枯渇に対するJAM Pedalsの回答
80年代初頭のディストーション・ボックスの音を語るとき、必ず名前が挙がるのがLM308というオペアンプです。スルーレートが低く、高域の再現が追いつかないことで生まれる独特の歪み方が、あのサウンドの核心とされてきました。
しかしLM308は長らく製造中止となっており、新品での安定調達はすでに現実的ではありません。JAM Pedalsはこの供給問題への対応として、ディスクリート部品で構成した独自のオペアンプを開発し、mk2に搭載しました。ICチップ1個で済んでいた部分を個別の抵抗やトランジスタで組み上げているため、基板上の実装面積も大きくなっています。
JAM Pedalsは、この独自設計によってオリジナルRattlerの開放的でダイナミックな、真空管アンプに近い反応を維持したとしています。既存チップの代替という消極的な選択ではなく、回路の各段を自社で詰められるようにするという設計思想の変更でもあります。
コントロールと内部設定
ノブとフットスイッチ
フロントパネルの操作系は、RAT系の伝統どおり3ノブでシンプルにまとまっています。
- L:Output Level(出力レベル)
- G:Gain(歪み量)
- T:Tone(高域の量。右に回すほど高域が削られます)
フットスイッチは左右で役割が分かれています。
- 右:Rattler本体のオン/オフ
- 左:ミッドブーストのオン/オフ
2つは独立しているため、ブーストだけを単体で使うこともできます。またクリックレス方式のため、踏み込んだときのカチッという機械音が出ません。静かなパートやアコースティック寄りのセットでも切り替え音が目立ちにくく、レコーディングでも扱いやすい仕様です。
内部トリマーとDIPスイッチ
裏蓋を開けると、ブーストの挙動を追い込むための2つのコントロールがあります。どちらも一度決めれば頻繁に触るものではありませんが、自分のセットに合わせ込むうえで効果的です。
- 内部トリマー:ブーストの出力量を調整します(工場出荷時:最大)
- 内部DIPスイッチ:ブースト側へのローカットを切り替えます。↓でブースト時の低域を削って音を引き締め、↑ではブースト作動時も低域がそのまま通過します(工場出荷時:↓=低域カット)
ローカットを効かせた状態は、歪みが増えても輪郭が保たれる方向に働きます。一方、低域を通す設定にすると、ブースト時によりフルレンジで押し出す音になります。ダウンチューニングやバリトンスケールを使う場合は、この2択を試す価値があります。
電源投入時の状態を4パターンから設定できる
初期状態では、電源を入れたときRattlerもブーストもオフになっています。この起動状態は、次の4パターンから選んで固定できます。
- Rattler オフ/ブースト オフ(初期設定)
- Rattler オン/ブースト オン
- Rattler オフ/ブースト オン
- Rattler オン/ブースト オフ
設定手順はシンプルです。電源ケーブルを抜き、状態を変更したいフットスイッチを押さえたまま電源ケーブルを再接続します。いったん電源を抜き差しして、意図した状態で立ち上がれば設定完了です。元に戻したい場合は、同じ手順をもう一度実行します。
常に歪ませた状態からスタートするセットや、逆に必ずクリーンから始めたい場合に、本番前の確認作業をひとつ減らせる機能です。
主な仕様
- バイパス方式:トゥルーバイパス
- 電源:9V DCアダプター(センターマイナス)
- 消費電流:95mA
- 入力インピーダンス:500kΩ
- 出力インピーダンス:5kΩ未満
- 外形寸法(ジャック・ノブ含む):7.5 × 12 × 5.6 cm
- 重量:280g
購入前に確認しておきたい3つのポイント
1. パワーサプライの容量に余裕があるか
消費電流95mAは、アナログのディストーションとしてはかなり大きい部類に入ります。同種のペダルが10mA前後で動作することを考えると、桁がひとつ違う水準です。
問題になりやすいのは、1系統あたり100mA前後のパワーサプライを使っている場合です。数値上は足りていても余裕がなく、他のペダルと分岐して使うと供給が不安定になる可能性があります。導入前に、使用中のパワーサプライの出力仕様を確認しておくことをおすすめします。デジタル系ペダル用に用意されている大容量出力(300mA以上)に挿すのが確実です。
なお、公式仕様に記載されている電源は9V DCアダプターのみで、電池駆動に関する記述はありません。95mAという消費電流を考えても、9V電池での運用は現実的ではないと考えるべきです。
2. ボード上のスペース
7.5 × 12 cmという寸法は、2フットスイッチ仕様のペダルとしては標準的ですが、一般的なコンパクトエフェクター(およそ6 × 11 cm)よりひと回り大きくなります。すでに埋まっているボードに追加する場合は、実寸で配置を確認しておくと安心です。
3. ベース用モデルとの取り違えに注意
JAM Pedalsには「Rattler Bass mk2」という型番の近いベース用モデルがあり、通販サイトでは並んで表示されることも少なくありません。両者は搭載機能が異なります。
- Rattler mk2(ギター用):ミッドブーストフットスイッチ+クリッピング切替トグル
- Rattler Bass mk2(ベース用):Dry/Wetミックスコントロール+ハイゲイン用フットスイッチ
ベース用はクリーン信号をブレンドできる構成で、ローエンドを保ったまま歪みを足せる設計です。ギターで使えないわけではありませんが、この記事で扱っている機能とは別物になります。購入時は型番をよく確認してください。
よくある質問
- Rattler mk2は電池で動きますか?
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公式仕様に記載されている電源は9V DCアダプター(センターマイナス)のみで、電池駆動についての記述はありません。消費電流が95mAと大きいため、電源はアダプターまたはパワーサプライで供給する前提で考えてください。
- ミッドブーストは音量ブーストとして使えますか?
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ミッドブーストはRattlerの歪み回路の前段に入るため、単純な音量の底上げではなく、歪み方そのものが変化します。JAM Pedalsもボリュームブーストではなくトーンエンハンサーとして位置づけています。結果として音量も上がりますが、クリーンブースターの代わりとして使う機能ではありません。
- ブーストの効きが強すぎる場合はどうすればいいですか?
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ブースト量を決める内部トリマーは工場出荷時に最大値で設定されています。裏蓋を開けてトリマーを反時計方向に絞ることで、効きを控えめに調整できます。あわせて内部DIPスイッチでブースト時のローカットの有無も選べます。
- 対称と非対称、どちらのクリッピングを選べばいいですか?
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非対称はオリジナルRattlerと同じ方式で、ざらついた質感とアタックの粒立ちが特徴です。対称はmk2で追加された方式で、より均一でコンプレッション感のある歪みになります。ピックアップやアンプとの組み合わせで印象が変わるため、両方を試したうえで自分のセットに合う側を選ぶのが確実です。
- mk1(旧モデル)から買い替える価値はありますか?
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mk2で追加されたのは、クリッピング切替、ミッドブーストフットスイッチ、カスタムオペアンプ、クリックレススイッチ、起動状態設定です。旧モデルの歪みそのものに不満がないのであれば必須の買い替えではありませんが、1台でソロとバッキングを切り替えたい、あるいはクリッピングの選択肢が欲しいという場合には、mk2の追加機能が直接効いてきます。
まとめ
Rattler mk2は、RAT系ディストーションの核となる質感を保ちながら、クリッピングの選択とミッドブーストによって1台の守備範囲を広げたモデルです。3ノブという入り口の簡潔さはそのままに、内部トリマーとDIPスイッチで自分のセットに合わせ込む余地も残されています。
導入にあたっては、95mAという消費電流に対応できる電源を用意できるかどうかが実質的な条件になります。そこさえクリアできれば、バッキングからソロまでを1台で行き来できる歪みとして、ボードの中心に据えられる存在です。

