アナログディレイの温かい残響が欲しくて、中古市場でDM-2を探したことはないでしょうか。1984年に生産を終えたこの名機は、いま状態の良い個体を見つけること自体が難しく、価格も年々上がり続けています。運良く出会えたとしても、40年前の電子部品がこの先何年もつのかという不安はついて回ります。
BOSS DM-2Wは、その悩みに正面から答えるために生まれた一台です。オリジナルDM-2の回路を熟知したBOSSのエンジニアが、当時と同じBBD(遅延素子)によるフルアナログ回路で設計し直し、新品の状態で、5年保証付きで手に入るようにしたモデルになります。
1981年の名機が、2014年に still 現役として蘇った
オリジナルのDM-2が登場したのは1981年のことです。BOSSにとってコンパクト・ペダル型としては初のアナログディレイにあたり、1984年の生産完了後も中古市場で高い人気を保ち続けてきました。
そのDM-2が、2014年に「技 WAZA CRAFT」シリーズのDM-2Wとして復活しました。単なる復刻にとどまらず、現代の音楽制作で使える機能が加えられているのが、このモデルの位置づけです。

あの「温かさ」は、実は制約から生まれたもの
DM-2の音がなぜあれほど独特なのか、BOSS自身が興味深い背景を明かしています。
コンパクトな筐体で最大300msというディレイ・タイムを実現するために、BOSSのエンジニアはBBDチップの能力を限界まで引き出す必要がありました。その手段のひとつとして採られたのが、エフェクト音の周波数を制限するという方法です。BOSSによれば、この設計上の判断こそが、DM-2特有の温かく包み込むようなトーンを生み、ギターの音と非常に相性の良いサウンドにつながったとされています。
つまりDM-2の音は、狙って作られた味付けというより、当時の技術的な制約と格闘した結果として立ち現れたものだったわけです。デジタルディレイのように原音を正確に繰り返すのではなく、繰り返すたびに角が取れて背景に溶けていく。この振る舞いが、いまも多くのギタリストを惹きつけている理由になります。
2つのモードは、こう使い分ける
DM-2Wの中央には、SとCを切り替える小さなモード・スイッチが備わっています。この一つのスイッチが、DM-2Wを単なる復刻機と分ける決定的な要素です。
スタンダード・モード(S)— オリジナルDM-2の忠実な再現
ディレイ・タイムは20ms〜300ms。これはオリジナルDM-2とまったく同じレンジです。BOSSはこのモードについて、オリジナルDM-2のマイルドなディレイ音を完全に再現したものと説明しています。
300msという上限は、現代のディレイとしては決して長くありません。ただ、この範囲はスラップバックから短めのアンビエンスまでをちょうどカバーする長さでもあります。ロカビリーやブルース、原音の輪郭を残したままわずかに空気感を足したい場面では、むしろこの制限が扱いやすさにつながります。
カスタム・モード(C)— 温かさはそのまま、輪郭を明瞭に
こちらはディレイ・タイムが40ms〜800msへと拡張されます。オリジナル機の2倍以上という長さです。
ここで押さえておきたいのは、カスタム・モードの狙いが「音作りの幅を広げること」ではなく、アナログ独特の温かみを保ちながら、クリアーさを両立させることにある点です。BOSSはこのモードを、アナログらしい暖かみのある音でありながら明瞭なディレイ・サウンドを生み出すものと位置づけています。
バンドアンサンブルの中でディレイ音が埋もれてしまう、あるいはもう少しリズミカルなディレイを踏み込みたい。そうした場面ではカスタム・モードが選択肢になります。デジタルディレイほど輪郭がくっきりするわけではないため、アナログの質感は保たれたままです。

見落とされがちな、2つの拡張機能
DM-2Wを検討する際、モードの話ばかりが注目されがちですが、実際に導入したあとで効いてくるのはこの2つの端子かもしれません。
DIRECT OUT端子 — 原音とディレイ音を分けて出力できる
DM-2Wは2系統のアウトプット端子を備えており、ディレイ音とダイレクト音を別々に出力できます。これはオリジナルのDM-2にはなく、後継のDM-3から受け継がれた機能です。
2台のアンプを使うウェット/ドライのセットアップが組めるほか、レコーディングでもディレイ成分だけを独立したトラックとして録音し、ミックス段階で分量を調整するといった使い方が可能になります。1台のアンプで完結させるなら不要な機能ですが、必要になったときに端子があるかどうかは大きな差です。
RATE端子 — ディレイ・タイムを足元でリアルタイムに動かす
TRS標準タイプのRATE端子にエクスプレッション・ペダル(別売のRoland EV-5)を接続すると、REPEAT RATE(ディレイ・タイム)を演奏しながら操作できます。
アナログディレイでディレイ・タイムを動かすと、テープエコーのようにピッチが揺らぎながら追従します。この挙動を足元でコントロールできるのは、DM-2にもDM-3にもなかった、DM-2Wで初めて加わった要素です。曲中でディレイの表情を変えたい方には、これだけでも選ぶ理由になり得ます。

購入前に知っておきたいこと
魅力ばかりを並べても判断材料にはなりませんので、事前に把握しておくべき点も挙げておきます。
- タップテンポは搭載されていません。曲のテンポにディレイを正確に同期させたい場合は、REPEAT RATEつまみを耳で合わせることになります
- 最大ディレイ・タイムは800ms。数秒単位の長いディレイやアンビエント志向のリピートには向きません
- プリセット機能はありません。設定はすべてつまみによる手動操作です
- 消費電流は35mAと控えめで、電源環境の負担は軽い部類に入ります
これらはいずれも、アナログ回路で構成されたペダルである以上、避けようのない性質です。逆に言えば、タップテンポや長尺ディレイ、プリセットを求めるのであれば、最初からデジタルディレイを検討したほうが満足度は高くなります。DM-2Wは「アナログの質感そのものが目的」という方に向いた一台です。
「技 WAZA CRAFT」という位置づけ
DM-2Wが属する「技 WAZA CRAFT」は、BOSSのコンパクト・ペダルにおけるスペシャル・エディションにあたるシリーズです。
創業以来、BOSSのエンジニアはアナログ回路設計から最先端のデジタル技術を駆使したDSPまで、あらゆる技術や培ってきたノウハウ、そして音に対する熱いスピリットを注ぎ込み、最高のギター・サウンドを追求し続けてきました。そのクラフトマンシップの結晶といえるコンパクト・ペダルが「技 WAZA CRAFT」です。熟練のエンジニアにより、一つひとつのパーツの選定からこだわり抜き、丹念に組み上げられたアナログ回路を搭載。細部に至るまでこだわったメイド・イン・ジャパンの「技 WAZA CRAFT」は、極上のサウンドと卓越した弾き心地をギタリストに提供します。
(BOSS公式サイトより)
加えて、DM-2Wには5年間の長期保証が付帯します。ヴィンテージのDM-2を中古で購入した場合、故障時の修理は個人の工房頼みになり、BBDチップの入手性という問題にも直面します。新品と保証という条件で同系統のサウンドが手に入る点は、実用面での大きな差になります。

DM-2Wが向いている方
- デジタルディレイの正確さではなく、繰り返すたびに滲んでいくアナログの質感を求めている方
- ヴィンテージDM-2に興味はあるものの、価格や動作の不安から踏み切れずにいる方
- スラップバックから中程度のディレイまで、扱う範囲がはっきりしている方
- ウェット/ドライの2アンプ運用や、ディレイ音の独立録音を検討している方
- タップテンポやプリセットを必要としない、つまみで完結する操作性を好む方

BOSS DM-2W の仕様
主な仕様
| 規定入力レベル | -20dBu |
|---|---|
| 入力インピーダンス | 1MΩ |
| 規定出力レベル | -20dBu |
| 出力インピーダンス | 1kΩ |
| 推奨負荷インピーダンス | 10kΩ以上 |
| ディレイ・タイム | スタンダード・モード:20ms~300ms カスタム・モード:40ms~800ms |
| コントロール | ペダル・スイッチ、REPEAT RATEつまみ、INTENSITYつまみ、ECHOつまみ、モード・スイッチ |
| インジケーター | CHECKインジケーター(バッテリー・チェック兼用) |
| 接続端子 | INPUT端子=標準タイプ、OUTPUT端子=標準タイプ、DIRECT OUT端子=標準タイプ、RATE端子=TRS標準タイプ、DC IN端子 |
| 電源 | アルカリ電池(9V形)またはマンガン電池(9V形)、ACアダプター(別売) |
| 消費電流 | 35mA |
| 連続使用時の電池の寿命 | アルカリ電池=約15時間 マンガン電池=約5時間 (使用状態によって異なります) |
| 付属品 | 保証書、チラシ(安全上のご注意、使用上のご注意、サービスの窓口)、アルカリ電池(9V形、本体に接続済み) |
| 別売品 | ACアダプター:PSA-100、エクスプレッション・ペダル:Roland EV-5 |
外形寸法 / 質量
| 幅 (W) | 73 mm |
|---|---|
| 奥行き (D) | 129 mm |
| 高さ (H) | 59 mm |
| 質量 | 460 g |
※0dBu=0.775Vrms
※仕様はBOSS公式サイトの情報に基づいています。製品の仕様およびデザインは改良のため予告なく変更される場合があります。
よくある質問
- DM-2とDM-2Wの違いは何ですか?
-
DM-2は1981年に発売され1984年に生産を終えたモデルです。DM-2Wは2014年に登場した「技 WAZA CRAFT」シリーズの製品で、BBDによるフルアナログ回路という基本構成を受け継ぎつつ、最大800msまで対応するカスタム・モード、原音とディレイ音を分けて出力できるDIRECT OUT端子、エクスプレッション・ペダル対応のRATE端子が加わっています。
- タップテンポ機能は搭載されていますか?
-
搭載されていません。ディレイ・タイムはREPEAT RATEつまみ、またはRATE端子に接続したエクスプレッション・ペダルで調整します。テンポへの同期を重視される場合は、タップテンポを備えたDD-3TやDD-8などが選択肢になります。
- 本当にアナログ回路なのでしょうか?
-
BOSSはDM-2Wについて、BBD(遅延素子)を使用したフルアナログ回路設計であると明記しています。デジタル処理によるアナログ・シミュレーションではありません。
- 電池でも駆動できますか?
-
9V形のアルカリ電池またはマンガン電池で駆動できます。連続使用時の電池寿命の目安は、アルカリ電池で約15時間、マンガン電池で約5時間です。ACアダプター(PSA-100)は別売となります。
- どちらのモードを使えばよいか迷います。
-
オリジナルDM-2の音そのものを目的とされているならスタンダード・モードです。バンドの中でディレイ音の輪郭を保ちたい場合や、300msを超える長さが必要な場合はカスタム・モードが適しています。演奏中にスイッチで切り替えられるため、曲や場面に応じて使い分けることも可能です。

