クリーンなアンプの音は気に入っているのに、バンドで音を出すとどうも前に出てこない。かといって歪ませたいわけではない——そんなもどかしさを抱えているギタリストは少なくないと思います。
そこで候補に挙がるのがクリーンブースターですが、種類が多いうえに「結局どれも似たようなもの」に見えてしまうのも正直なところです。ところが2026年7月、JHS Pedalsから登場したFUMBLEは、その中でもかなり異色の存在でした。なにしろ、JHS史上最大の“しくじり”がきっかけで製品化されたペダルなのです。
しかもその回路の正体をたどっていくと、数十万ドル規模で取引される伝説的アンプの“あの音”、さらにはその先にある意外な出自にまで行き着きます。ノブはたった2つ。それでいて、他のブースターにはない効き方をするコントロールを備えたペダルです。
JHS Pedals FUMBLEはどんなペダルか
FUMBLEは、JFETを使ったクリーンブースト回路をトゥルーバイパス仕様のコンパクト筐体に収めたペダルです。ノブはOUTPUTとINPUTの2つだけ。歪みを積極的に加えるタイプではなく、いま出ている音の輪郭や押し出し感を整えることに主眼を置いた設計になっています。
ベースになっているのは「Dumble BBC-1」と呼ばれるJFETプリアンプ回路です。Howard Dumble氏が一部のプレイヤー向けに提供し、自身のアンプにも「FETモード」として組み込んでいたもので、JHSはこれをそのまま単体ペダル化したと説明しています。
JHS史上最大の「しくじり」から生まれた経緯
FUMBLEの成り立ちは、エフェクター業界でもなかなか見ないほど込み入っています。順を追って整理してみます。
2025年5月:NOTADÜMBLËのクリーン側に別の回路が入っていた
JHSは2025年5月、ソルダーレスDIYキットの第2弾として「NOTADÜMBLË」を発売しました。Dumbleサウンドを象徴する2つの回路を1台に収めたもので、オーバードライブ側はLarry Carlton、Eric Johnson、Robben Fordといったプレイヤーが知られるリードトーンを狙ったブティックスタイルの回路です。
問題はクリーン側でした。本来搭載されるはずだったのは、Howard Dumble氏が1980年代にアンプとは別に製作したバッファード・エフェクトループ「A Box Later」を解析・複製した回路です。John Mayer氏が所有する実機を借り受けて作られたこのレプリカは「Box It Later」と名付けられ、2021年以降、John Mayer氏のペダルボードで世界中のツアーを共にしてきたものでした。
ところが発売から1週間後、紹介動画の制作中にJHSのJosh Scott氏が気づきます。搭載されていたのは、2019年にやはりJohn Mayer氏のためにリバースエンジニアリングした、まったく別のDumble製プリアンプだったのです。
「あのクリーン回路を単体で出してほしい」という声
JHSは残った在庫を販売したうえでNOTADÜMBLË V1を生産完了としましたが、そこで話は終わりませんでした。誤って搭載された回路のクリーンサウンドを気に入ったユーザーから、単体販売を望む声が寄せられたのです。それに応える形で製品化されたのが、「しくじる」を意味するFUMBLEでした。
たどり着いたのは1970年代のアコースティック用プリアンプ
さらに調べを進めたJHSは、もうひとつの事実にたどり着きます。BBC-1回路はDumble氏のオリジナルではなく、1970年代のBarcus Berry製アコースティック・プリアンプからほぼそのまま引用されたJFETプリアンプだった、というのです。
Dumble氏はこの回路を自身のエンクロージャーに収めて一部のプレイヤーに提供し、同じJFETステージをアンプにも搭載して「FETモード」と呼んでいました。つまり高額なヴィンテージアンプに宿るFETサウンドの出自は、ピエゾ用のアコースティック・プリアンプだったことになります。JHSはFUMBLEを「そのクローンのクローンのクローン、3世代先のレプリカ」と表現しています。
名前とアイコンは14年前から引き出しの中に
余談として、JHSは「Fumble」という名前とフットボールヘルメットのアイコンを2012年4月から社内で温めていたと明かしています。もともとはDumble系オーバードライブに使う予定でしたが、その座はMoonshineに譲られ、以来14年間引き出しで眠っていたそうです。名前だけが先に用意されていた、というわけですね。
2つのコントロールと、その効き方
OUTPUT
マスターボリュームです。右に回すほど出力音量が上がる、シンプルな役割を担っています。
INPUT
FUMBLEらしさが出るのがこちらです。一般的なゲインノブとは異なり、回路の入力段で低域とゲインを同時に減衰させるコントロールになっています。
右いっぱいの位置では減衰がかからず、いわばこのコントロール自体をバイパスした状態です。そこから左へ回していくと低域とゲインが少しずつ削られ、細身でタイトなレスポンスへ。逆に右へ戻していくほど太く、音量感のあるサウンドになるとJHSは説明しています。「こうした効き方をするブースターは他にほとんどない」というのがメーカー側の主張です。
4つの使い方とセッティングの目安
JHSは公式に4通りの使い方を挙げています。それぞれのねらいとノブの目安をまとめました。
| 使い方 | ねらい | セッティングの目安 |
|---|---|---|
| ボード先頭で常時オン | 後段全体を引き締め、常設の“隠し味”として | OUTPUTは低めに、INPUTは好みの位置 |
| オーバードライブの前段 | お気に入りの歪みにもう一段のブースト感を追加 | OUTPUTを上げ気味に |
| 歪んだアンプの前段 | クランチしたアンプをより大きく、輪郭のある音に | INPUTを絞るとタイトでトレブリーなアタックに |
| チェーン末尾のソロブースト | コーラスやソロで踏むだけの音量アップ | OUTPUTを大きめに、INPUTは好みの位置 |
オーバードライブの前段で使う例として、JHSはTimmy、King of Tone、Klon、Morning Gloryといったモデル名を挙げています。歪んだアンプの前に置くケースでは、Tweed系やPlexi系のようにすでにクランチしているアンプが想定されています。
なお公式には、1970年代の本来の用途にならってアコースティックギターに使ってみるのも面白い、という趣旨の案内もあります。もとがアコースティック用プリアンプ由来であることを踏まえた提案ですね。
こんな人に向いています
- 歪ませずに、いまのクリーントーンの押し出しと輪郭だけを持ち上げたい方
- ノブが少なく、迷わず使えるブースターを探している方
- 手持ちのオーバードライブやクランチアンプの前段に、もう一段の押しを足したい方
- 低域をコントロールしながらブーストしたい方(INPUTで入力段の低域とゲインを同時に調整できます)
- Dumble系サウンドの成り立ちに興味がある方
- NOTADÜMBLË V1のクリーン側が気に入っていた方(中身は同じ回路とされています)
向いていないケース
- ペダル単体で歪みを作りたい方——FUMBLEはオーバードライブでもハイゲインペダルでもない、とJHS自身が明言しています
- Dumble系のリードトーンが目的の方——その用途にはNOTADÜMBLË V2(正しいBox It Laterクリーン+オーバードライブを搭載)が案内されています
- EQやトーンで積極的に音色を作り込みたい方——コントロールは2つのみです
- 電池駆動でシンプルに運用したい方——DC9Vセンターマイナスでの駆動が前提となっています
製品仕様
| 回路方式 | トゥルーバイパス JFETクリーンブースト |
| コントロール | INPUT(低域・ゲインアッテネーター)/OUTPUT(マスターボリューム) |
| 電源 | DC9V センターマイナス |
| 消費電流 | 5mA |
| サイズ | 約49.8 × 99.8 × 30.7 mm |
| 組み立て | アメリカ・ミズーリ州カンザスシティ |
| 国内正規輸入代理店 | キョーリツコーポレーション |
9VDCセンターマイナス以外での使用は破損の原因となり、保証の対象外になるとメーカーが注意を促しています。パワーサプライの出力設定は接続前に確認しておくと安心です。
※価格や在庫状況は変動します。最新の情報は各販売店のページでご確認ください。
よくある質問
- FUMBLEはオーバードライブとしても使えますか?
-
販売店の紹介文の中にはオーバードライブとして説明しているものも見られますが、JHSはFUMBLEについて「オーバードライブでもハイゲインペダルでもない」とはっきり述べています。あくまでクリーンブースターとして考えるのが正確です。
- トゥルーバイパスなのに「常設バッファー」として使えるのはなぜですか?
-
JHSが挙げているのは、ボード先頭に置いて常時オンで使うという運用です。オンの状態でJFETの入力段を通ることでバッファー的な役割を果たす、という意味合いになります。トゥルーバイパス仕様のため、オフのときは信号がそのまま素通りする点にご注意ください。
- NOTADÜMBLËを持っている場合、FUMBLEは必要ですか?
-
NOTADÜMBLË V1をお持ちで、そのクリーン側の音を気に入っているのであれば、FUMBLEに入っているのは同じ回路とされています。一方でV2は本来予定されていたBox It Laterのクリーン側とオーバードライブを搭載したモデルなので、目的に応じて選び分けることになります。
- 電池では動きますか?
-
公式仕様に記載されているのはDC9Vセンターマイナスでの駆動のみです。パワーサプライやアダプターを用意しておくのが確実です。
- アコースティックギターに使えますか?
-
もともとの回路が1970年代のアコースティック用プリアンプに由来していることから、本来の使い方としてアコースティックに試してみる案内も出ています。エレアコのプリアンプ後段などで試してみる価値はありそうです。
- 修理や保証はどこに相談すればよいですか?
-
国内正規輸入代理店であるキョーリツコーポレーションの取り扱い品であれば、購入店経由で代理店サポートを受けられます。並行輸入品は対応が異なる場合があるため、購入前に販売店へ確認しておくと安心です。
まとめ
FUMBLEは、JHSの取り違えという偶然から生まれ、たどってみれば1970年代のアコースティック用プリアンプに行き着くという、なんとも数奇な出自を持つクリーンブースターです。
ただ、使う側から見れば話はいたってシンプルで、OUTPUTで音量、INPUTで低域とゲインの減衰量を決めるだけ。ボードの先頭に常設しても、ソロ用に末尾へ置いても、あるいは歪みの前段に忍ばせても機能するので、1台あると出番の多いタイプだと思います。歪みそのものを足すペダルではない、という点だけ押さえておけば、選び方を間違えることはなさそうです。

