strymon ストライモン / TimeLine MX ディレイ

strymon strymon / TimeLine MX ディレイ

strymon(ストライモン)のフラッグシップ・ディレイが、初代の登場から15年を経て刷新されました。「TimeLine MX」は、メーカー自身が「史上最もパワフルなディレイ・ペダル」と謳う一台です。tri-core 800MHzのARMプロセッサーを新たに搭載し、12種類のマシンのうち任意の2つを同時に走らせられるようになったことで、初代TimeLineとは設計思想の段階から別物といえる進化を遂げています。ヴィンテージエコーの質感から実験的なグラニュラー処理まで、ディレイと名のつく表現をほぼ網羅する内容です。

目次

全12マシン——11種類のディレイと、新開発のリバーブ

TimeLine MXが搭載するマシンは全部で12種類。内訳は11種類のディレイエンジンと、新規開発されたリバーブエンジンが1種類です。初代TimeLineから受け継いだ定番アルゴリズムが軒並み手を入れられたうえで、Oil Can、Spectral、Drum、MultiTap、そしてReverbの5つが新たに加わりました。

定番アルゴリズムの再設計:dTAPE、dBUCKET、DIGITAL

「dTAPE」は、スライディングヘッド方式のテープエコーを再現するエンジンです。Low End(低域)、Wow & Flutter(ワウ&フラッター)、Tape Crinkle(テープのしわによる揺らぎ)、Tape Age(テープの劣化具合)といったパラメーターで質感を追い込めます。voiceは2種類あり、新しいMXボイスではRecord Levelを上げてテープをより深く飽和させられ、Classic TimeLineボイスではTape Biasによる独特のざらつきが得られます。

「dBUCKET」は、アナログBBD(バケットブリゲード・ディレイ)特有の温かいリピートと、繰り返すごとに崩れていく信号劣化を再現します。こちらもClassic TimeLineとMXの2つのアルゴリズムから選択でき、モジュレーションも細かく調整可能です。

「DIGITAL」は、1980年代から現代までのラックディレイの音を4つのボイスで再現します。24/96は控えめなダイナミクス処理を伴うクリーンな現代的サウンド、ADMは80年代初頭の適応デルタ変調による歯切れのよいリピート、12 Bitは80年代中期の変換方式による暗く温かいリピート、Classicは初代TimeLineのデジタル音そのものです。Repeat Dynamicsを有効にすると、リピートがより速く自然に減衰します。

新搭載のヴィンテージ系エンジン:DRUM、OIL CAN

「DRUM」は、ヴィンテージのドラムエコーが持っていた機械的な不安定さ——独特のワーブルとソフトクリップの質感——を再現した新エンジンです。再生ヘッドを個別にオン/オフでき、それぞれの間隔、レベル、フィードバック、パンを設定することで、時間とともに変化していくパターンを組み立てられます。

「OIL CAN」もMXからの新顔で、オイルカン・エコーを下敷きにしたエンジンです。一般的なエコーより暗く濁った、予測しづらいリピートが特徴。粘り気のあるモジュレーションが時間とともに揺れ動き、そのまま持続的なアンビエント・テクスチャーへと変化していきます。

実験志向の2エンジン:SPECTRAL、MULTITAP

「SPECTRAL」は、ストライモン流のグラニュラーディレイです。入力信号を細かな粒に分割し、それぞれにピッチシフト、リバース、タイムストレッチ、フィルター処理を加えていきます。Grain Shapeで粒そのものの形状を変えられるため、グリッチ的なパターンから滑らかな音響空間まで、振れ幅はかなり大きめです。

「MULTITAP」は最大8タップのディレイで、タップごとにパン、レベル、フィードバック、フィルタータイプ、カットオフ周波数を個別に設定できます。内蔵パターンから選んでもよく、自分で組んでも構いません。8本のパラレルディレイラインとして構成することも可能で、リズミカルな用途からアンビエントまで幅広く使えます。他のエンジンと組み合わせると、リズムの土台としての性格がさらにはっきりしてきます。

初代から続く個性派:REVERSE、ICE、LO FI、FILTER

「REVERSE」は、弾いたフレーズが逆再生で返ってくるエンジン。演奏とテンポの両方に同期するため、再現性のある逆再生が得られます。「ICE」は分割した音の断片を再構成して再生し、1オクターブ下から2オクターブ上までのインターバルシフトを適用できます。

「LO FI」はビットクラッシュとサンプルレート・リダクションで信号を意図的に崩すエンジンです。トランジスターラジオや電話機を模したフィルターに加え、ストライモン独自のdVINYLアルゴリズムによるレコード風のノイズも用意されています。サンプルレートをエクスプレッションペダルに割り当てると面白い変化が得られます。「FILTER」は同期したトレモロとダイナミックフィルターを組み合わせたもので、LFO波形のほか、スピード、デプス、Q、カットオフを調整できます。

12番目のマシン:REVERB

ディレイマシンと同列に選べる「REVERB」は、小さな部屋の響きから、長いディケイを持つ広大なアンビエントまでをカバーします。Gritを上げるとリバーブタンクの前後に飽和成分が加わり、歪んだ倍音を含む響きに。同社のFlintに着想を得たトレモロをウェット信号にかけることもでき、スピードとデプスの調整も可能です。

2系統同時駆動と、全エンジンで使えるSwell/Duck

TimeLine MXがもっとも大きく変わったのは、マシンの中身よりもむしろ「同時に2つ使える」という構造そのものかもしれません。

Series/Parallel/Splitのデュアルエンジン

2系統のエンジンは、Series(直列)、Parallel(並列)、Split(分岐)のいずれかでルーティングでき、エンジンごとに独立したパンを設定できます。ディレイ同士を重ねてもいいですし、ディレイ+リバーブという定番の組み合わせを1台のプリセットに収めることも可能です。ルーティングの状態は画面に表示され、編集中はボタンひとつでエンジンを切り替えられます。グローバル設定でフットスイッチをDUALモードにすれば、各エンジンのオン/オフを足元で個別に操作できます。

SwellとDuckが全エンジンで使えるように

初代TimeLineでは、SwellとDuckはそれぞれ独立した1つのマシンでした。MXではこれが全ディレイエンジン共通の機能になっています。Swellはリピートにフェードインをかけてアタックを和らげるもので、Mixを全ウェットにしてRepeatsを上げれば、そのままアンビエント用途に振れます。Duckは演奏中はリピートを抑え、手を止めると自然に持ち上がってくる挙動で、量とリリースタイムを指定できます。エンジンの選択と引き換えにこれらを諦める必要がなくなったのは、実用面での恩恵が大きいところです。

5分のステレオルーパー

内蔵ルーパーは最大5分のステレオ録音に対応し、複数フットスイッチを使うマルチモードと、1 Buttonモードを切り替えられます。ディレイの前段・後段どちらにも配置可能。1 Buttonモードではルーパーモードに入らずその場で録音を始められるため、演奏の流れを止めずに使えます。Reverse、Redo、Half SpeedといったルーパーコントロールもMIDI経由で呼び出せます。

ステージでの操作性と、プロ機材としての接続性

OLEDディスプレイと300のプリセット

明るいOLEDディスプレイは照明環境の厳しいステージでも視認性が高く、メニュー構造も追いやすく整理されています。プリセットは300個。専用のTAPフットスイッチはテンポ入力と1 Buttonルーパーの操作を兼ねており、点灯しているA/Bフットスイッチを長押しすればInfinite Repeats(無限リピート、リバーブでは無限サステイン)に入ります。

I/OとMIDIコントロール

入出力端子はすべてTRSステレオ仕様で、用途に応じて構成を切り替えられます。通常のステレオ入出力に加え、モノラル/ステレオのエフェクトループ、ウェット/ドライ、ウェット/ドライ/ウェットといったプロ向けの配線にも対応します。MIDIはUSB-C、TRS、DINの3系統から利用でき、プリセット切り替え(プログラムチェンジ)と各種パラメーター操作(CC)が可能です。EXP端子はエクスプレッションペダルのほか、MultiSwitch/MultiSwitch PlusやTRS MIDIにも設定できます。

アナログ回路と、今後予定されるNixie 2対応

入力段にはディスクリートのクラスA JFETプリアンプ、出力段には低インピーダンス回路を採用。楽器レベルとラインレベルの入力切り替えに対応し、ドライ信号は一度もデジタル変換されないアナログドライパスを通るため、レイテンシーは生じません。バイパスはTrue Bypass(リレー方式)とBuffered Bypassから選択できます。

また、今後リリース予定のエディターソフト「Nixie 2」に対応予定です。プリセットの作成・編集をパソコン上で行い、変更を即座に音として確認したり、バックアップを取ったりできるほか、対応する複数のストライモン製ペダルを1つの画面から管理できるようになります。

主なスペック

  • マシン数:12(ディレイ11+リバーブ1)/同時使用は2系統
  • プリセット数:300
  • プロセッサー:800MHz tri-core ARM/32bit浮動小数点処理
  • A/D・D/A:24bit/96kHz
  • 入力インピーダンス:1MΩ/出力インピーダンス:100Ω
  • 最大入力レベル:+10dBu/S/N比:116dB(typ.)
  • ルーパー:ステレオ・最大5分
  • 電源:9VDC センターマイナス 500mA以上(別売)
  • サイズ:幅17.2×奥行12.7×高さ4.8cm(アルミ・アルマイト筐体)

初代TimeLineは15年にわたって定番であり続けたペダルですが、MXは単なる音質のブラッシュアップではなく、「2系統を自由に組み合わせる」という一段上の使い方を前提に作り直された機種です。ディレイ1台で完結させたい人にも、システムの中核に据えたい人にも、それぞれ違う理由で応えてくれる仕上がりになっています。

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