Z.VEX の VIBROPHASE は、フェイザーとヴィブラートのあいだを無段階で行き来できる光学式のモジュレーションペダルです。もとになっているのは、ろうそくの炎を動力にして音を揺らす Candela Vibrophase という一風変わった機械で、その回路をそのままペダルの筐体に収め、音作りの幅を広げる形でまとめ直したのがこのモデルにあたります。
ろうそくの炎で動く機械から生まれたペダル
Candela Vibrophase は、真鍮とガラスで組み上げられた据え置き型のエフェクターです。ティーライトキャンドル1本を燃料に、ソーラーセルで回路に電力を供給し、スターリングエンジンで光学ディスクを回転させ、そのディスクを通り抜けた光をフォトセルに当てることで音を揺らす、という仕組みを持っています。キャンドル1本で動く時間はおよそ5時間、ディスクは自分で模様を描いて差し替えられるため、揺れ方そのものを描いて作れる装置でした。Zachary Vex はこれを、Univibe をはるかに自由に調整できる形にしたものとして位置づけています。
この音をふつうの電源で使えるペダルに収めてほしいという声を受けて、Candela の回路を土台にしながらテクスチャーの幅を大きく広げる形で設計されたのが VIBROPHASE です。ろうそくとスターリングエンジンが担っていた光の変化は LED に置き換えられ、9V 電源で扱える5ノブのストンプボックスとして成立しています。
4ステージという選択
フェイザー部は Super Hard-On のフェイズシフト段を使った4ステージ構成です。Zachary Vex は Candela の設計にあたって、段数の多いフェイザーのように効果そのものが前に出てくる揺れではなく、ギターの音色をやわらかく色づけしながら水のようにうねる4ステージの質感を出発点に据えており、その素性は VIBROPHASE にもそのまま引き継がれています。派手さで押し切るタイプではなく、弾いているフレーズのニュアンスを残したまま空気を動かすような効き方をします。
Vibrato/Phase:揺れの性格を無段階でつなぐ
Vibrato/Phase は、反時計回りいっぱいでヴィブラート、時計回りいっぱいでフェイズになるコントロールです。フェイズシフト段を通って揺れている信号に対して、原音をどれだけ混ぜるかを決めており、原音が加わることで位相の打ち消しが起き、フェイザーらしいうねりが立ち上がります。
スイッチによる切り替えではなく連続可変であるため、ノブの途中では、ピッチが揺れるヴィブラートの感触とフェイズのうねりが混ざり合った、どちらとも言い切れない質感が得られます。この中間領域を自分の耳で探せることが、VIBROPHASE を他のフェイザーと分けている部分です。
High Bias と Low Limit:スイープの範囲そのものを決める
一般的なフェイザーが Depth で揺れの深さを決めるのに対して、VIBROPHASE はスイープが動く範囲の上端と下端を、ふたつのノブで挟み込んで設定します。High Bias が LED に送られる電圧の最高値、Low Limit が最低値を決めており、両者は互いに影響し合うため、片方を動かしたらもう片方を調整し直す、という手順で追い込んでいくことになります。
ふたつの値を近づけて範囲を狭く取れば、ワウを半開きにしたような鼻にかかった帯域だけで揺れが留まり、非常に音楽的なポイントを作ることができます。逆に大きく開けば上下いっぱいを使ったスイープになり、低域寄りだけを動かす設定や、高域のかすかな帯域だけを揺らす設定も選べます。深さを一本のノブで決めるのではなく、どの帯域をどれだけ動かすかを自分で決められる設計になっています。
Feedback:うねりの濃さを足す
Feedback は、出力信号の一部を4つのフェイズシフターの入力側へ戻すコントロールです。上げていくとうねりのピークが立ち、段数を増やしたときに近い密度が出てきます。さらに上げると口笛のような発振成分が混ざり始めますが、これも音の表情として扱える範囲であり、控えめに使うか思い切って回し切るかで、同じ設定でもまったく別の顔になります。
Speed:這うような遅さから高速まで
Speed は、正弦波を生成して LED を駆動するマイクロコントローラーへの入力を調整するノブで、揺れているのかどうか判別しづらいほど遅い速度から、目まぐるしく回転する高速まで、非常に広い範囲をカバーします。
マイクロコントローラーが関わるのは Speed の LFO 生成部のみで、オーディオパスは全アナログです。信号が通る部品は、70年代以前から存在していたデバイスだけで構成されています。
公式ドキュメントに記載されたセッティング例
ノブの相互作用が大きいペダルなので、最初のとっかかりとして公式インストラクションに載っている設定を並べておきます。数値は時計の文字盤に見立てた位置です。
| 設定名 | Speed | Vibrato/Phase | Feedback | High Bias | Low Limit |
|---|---|---|---|---|---|
| Bread “if” | 12時 | 反時計回りいっぱい | 2時 | 1時半 | 1時半 |
| Slow Phase | 反時計回りいっぱい | 時計回りいっぱい | 2〜3時 | 12時 | 12時 |
| Midrange Phase | 8時半 | 時計回り | 2〜3時(上げるほど鼻にかかった質感) | 12時 | 4時(低域を削る) |
| Vibrato | 10時半 | 反時計回り | 反時計回りいっぱい | 1時 | 2時半 |
このほかに Spacey と名付けられた設定があり、こちらは Speed を2時、Vibrato/Phase を反時計回り、Feedback を時計回りにしたうえで、High Bias を時計回りいっぱいから下限まで下げ、High Bias が底に達するあたりで Low Limit も下げていき、その後ふたつを一緒に上げ直すという、演奏中にノブを動かす前提の設定になっています。これらの数値はおおよその目安で、個体によって最適な位置は前後します。
主な仕様
| タイプ | フェイザー/ヴィブラート |
| フェイズ段数 | 4ステージ(Super Hard-On フェイズシフト段) |
| 変調方式 | 光学式(LED + フォトセル) |
| コントロール | Speed、Vibrato/Phase、Feedback、High Bias、Low Limit |
| 信号経路 | オールアナログ(LFO 生成部のみマイクロコントローラー) |
| 電源 | 9V 電池/9VDC センターマイナス(標準バレルプラグ) |
| 消費電流 | 50mA 未満(多くの設定では 20mA 未満) |
| 外形寸法 | 約 109 × 67 × 51 mm(L×W×H) |
| 保証 | 1年(ZVEX.com での製品登録により2年) |
音作りのなかでの立ち位置
4ステージのフェイザーは、揺れ幅を控えめに設定すればコードストロークやアルペジオの背後で空気をゆっくり動かす程度に収まり、バンドアンサンブルのなかでもコード感を濁しません。Vibrato 側へ寄せて Feedback を絞れば、原音を混ぜないぶん芯が揺らぐヴィブラートになり、単音のフレーズに独特の浮遊感が乗ります。
一方で、Feedback を上げて High Bias と Low Limit でスイープを狭い帯域に閉じ込めると、フィルターが特定のポイントで往復するような、フェイザーというより別の楽器に近い響きが出てきます。ひとつの定番サウンドを素早く呼び出すためのペダルというよりは、揺れの範囲と質感を自分の手で組み立てていく種類のエフェクターです。
よくある質問
- トレモロとして使えますか
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音量を周期的に上下させるトレモロ回路は搭載していません。VIBROPHASE の揺れはフェイズシフトによるもので、Vibrato/Phase ノブはヴィブラートとフェイズのミックスを調整するコントロールです。
- 揺れの深さを決めるノブはどれですか
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単独の Depth ノブはありません。High Bias でスイープの上端、Low Limit で下端を設定し、その差が揺れの幅になります。ふたつは互いに影響し合うため、交互に調整しながら追い込む形になります。
- 電池でも動作しますか
-
9V 電池と 9VDC センターマイナスのアダプターのどちらにも対応します。ただし High Bias は電圧を基準に動作するため、電池が消耗してくるとスイープの上端が下がり、揺れ方が変化することがあります。
- デジタル回路が入っているとのことですが、音への影響はありますか
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マイクロコントローラーは LFO の正弦波を生成して LED を駆動する部分にのみ使われており、オーディオ信号が通る経路は全アナログです。
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