スイッチひとつで、洗練された大型チューブアンプの鳴りと、ファズ寸前まで暴れるハイゲインを行き来する。Catalinbread SFTは、その両極を1台に収めたオーバードライブです。
ライブハウスのバックラインは選べませんし、自宅やスタジオで大型アンプをフルアップできる環境もそう多くはありません。それでも、真空管アンプを上げ切ったときのあの膨らみと、ピッキングへの反応だけは代わりが利かない。SFTは、その「アンプそのもの」を足元に置くために作られたペダルです。
常時オンにして音の土台にし、ギター側のボリュームでクリーンからクランチまで操る。手持ちのブースターやファズは、すべてこのペダルの前に並べる。使い方まで含めて、アンプと同じ発想で組み立てられています。
Catalinbread SFTとは
SFTは、アメリカ・オレゴン州ポートランドのCatalinbreadが手がけるファウンデーション・オーバードライブ・シリーズの1台です。Ampegの大型チューブアンプに使われていた回路構成をベースにしており、オペアンプもクリッピングダイオードも使っていません。3段のゲインステージをJFETで構成し、真空管アンプの挙動そのものを再現する設計です。
Catalinbreadは、SFTを「Get Yer Ya-Ya’s Out!」に代表されるストーンズ期のサウンドと、デザートサウンドと呼ばれるストーナーロック期のサウンドを橋渡しするAmpegインスパイアのオーバードライブとして位置づけています。
Baxandall型トーンスタックという核心
SFTの音を決定づけているのが、Ampegがほぼ全機種で採用していたBaxandall型のトレブル/ベース・シェルビング回路です。SFTでは受動型で実装されているため、回路的に正確には「James型」と呼ぶべきものになります。
この回路の重要な点は、両方のつまみを12時にしたときにフラットな特性が得られることです。Fender系やMarshall系の古典的なトーンスタックは、どう設定してもフラットにはなりません。それがあのアンプたちの個性でもあるわけですが、Ampeg系のSFTは、広く平坦なレンジを出発点にできます。ここが他のアンプ系オーバードライブと決定的に異なるところです。
つまみは2つだけですが、動かせる帯域はトレブル・ミッドレンジ・ベースの3つに及びます。ミッドが固定されているわけではなく、2つのつまみの組み合わせでミッドを押し出すこともスクープすることも可能です。詳しい操作方法は後述します。
STONES/STONERモード|1台に2つの顔
SFTの最大の特徴が、筐体上部に配置されたSTONES/STONERモードの切替スイッチです。これは単なるゲインブーストではありません。回路構成そのものが切り替わり、ペダルの性格が完全に別物になります。
STONESモード|大型チューブアンプの再現
洗練された、いわゆる「アンプらしい」側です。全てのつまみを12時にすると、バイパス時と比べて比較的フラットな特性に、ローミッドがわずかに強調されたトーンが得られます。これが大型Ampegを上げ切る手前まで持ち上げたときの反応で、ルーツロックやブルースにそのままはまります。
ギター側のボリュームを絞ると、驚くほど素直にクリーンへ戻ります。1ボリュームのビンテージアンプと同じ操作感で、歪み量をギター側からコントロールできる作りです。
STONERモード|ファズ領域までのハイゲイン
スイッチを押した瞬間、出力もゲインも大幅に増加します。上品なアンプシミュレーションから、ファズ領域まで到達する荒々しいディストーションへ変貌します。
GAINを全開、BASSを全開、TREBLEを最小、VOLUMEを9時あたりに設定し、ギターをフロントピックアップにしてトーンを絞ると、низ域の量感とサステインが極端に伸びたファズトーンになります。VOLUMEを上げすぎないよう注意が必要なほど出力があります。
回路上で何が変わっているのか
Ampegのアンプは、伝統的にリニアでハイファイな特性を狙っていたため、プリアンプ段にカソードバイパスコンデンサを使いません。SFTもこの設計を踏襲しています。
STONERモードに切り替えると、このカソードコンデンサが追加されてゲインが跳ね上がり、同時にネガティブフィードバックループが取り除かれます。フィードバックループは音の締まりとゲイン量を常識的な範囲に保つための仕組みですから、それを外すということは、意図的に制御を手放しているわけです。同じ筐体の中で、設計思想が反転します。
2バンドEQの実践的な使い方
TREBLEとBASSはどちらも12時でフラット、そこから下げるとカット、上げるとブーストします。効き方に癖があるので、狙いごとに整理しておきます。
ミッドを前に出したいとき
BASSを9時、TREBLEを12時から始めてください。SFTのTREBLEはハイだけでなくアッパーミッドも一緒に持ち上がるよう調整されているため、TREBLEを12時から1時半あたりに置くと、ハイが刺さらないままミッドだけを押し出せます。GAINを上げることでもミッドはプッシュされます。
ミッドを削りたいとき
TREBLEとBASSを両方とも高めに設定します。GAINが低い状態のときに特に効果的です。
各つまみの効く帯域
- BASS:12時から下げると200Hz付近のハイパス動作になり、こもりや膨らみすぎを整理できます。上げていくと同帯域がブーストされ、最大付近では極端なローエンドの盛り上がりが出ます。この振り幅はSTONERモードでファズを作るために用意されたものなので、通常の使用では9時〜12時のあたりに落ち着くはずです。
- TREBLE:12時から下げると1000Hz付近のローパス動作になります。低ゲインでクリーンを狙うとき、STONERモードでウーリーなファズを作るとき、そしてベースで使うときに12時より下げる場面が出てきます。上げていくと12時から2時あたりまではアッパーミッドが持ち上がり、それ以降で本格的にトレブルが伸びます。
もうひとつ知っておくと役に立つのが、トーンスタックの位置です。SFTではトーン回路が最終ゲインステージの直前に置かれています。つまりトーンつまみを上げること自体が最終段を強く歪ませます。クリーンな反応が欲しければGAINだけでなくトーンつまみも低めに、最大の歪みが欲しければ全部上げる。この関係を押さえておくと、音作りが一気に速くなります。
GAINノブは1ボリュームアンプと同じ感覚
STONESモードのGAINは、マスターボリュームを持たない大型チューブアンプのボリュームつまみと同等のレンジに調整されています。
| GAINの位置 | 得られる反応 |
|---|---|
| 最小〜10時 | クリーンでブライト。レスポンスが高い |
| 10時〜12時 | クリーンと歪みの境目。ピッキングで歪み量が変わる |
| 12時〜2時 | 多くのチューブアンプが持つオーバードライブのスウィートスポット |
| 2時以降 | クランチからサチュレーションの強いサウンドへ |
本物のアンプと同じで、繋ぐギターによって反応も変わります。ビンテージ出力のFender系ならGAINを上げてもクリーンが粘り、ハムバッカーや高出力ピックアップなら早い段階で歪み始めます。GAINの設定に合わせてTREBLE/BASSの位置も変えていくと、狙った音に早く辿り着けます。
電源電圧で音そのものが変わる
SFTは9Vから18VまでのセンターマイナスDCで動作します。消費電流は4mAと少なく、9V電池でも駆動できます。
18Vで駆動すると、音量・ヘッドルーム・アタックの粒立ちが明確に増します。バンドでの演奏では、抜けの良さとレンジの広さが効いてきます。9Vではやや柔らかく、飽和しやすい鳴りになります。50Wアンプと100Wアンプの違いに近い変化です。
さらに、3〜4Vまで消耗した電池や、電圧を落とせるパワーサプライを使うと、より柔らかく音量も控えめな「スターヴド」なトーンが得られます。Variacで電圧を下げたアンプに近い、ブラウンサウンド寄りの質感です。深夜に音を出したいときの選択肢にもなります。1台で複数の性格を引き出せる点は、価格に対する納得感に直結する部分です。
ボードのどこに置くか
ここを間違えると、SFTは本来の実力を出しません。SFTはアンプの代わりですから、アンプと同じ位置に置くのが正解です。
基本は、歪み系の最後段。ブースター、ファズ、チューブスクリーマー系オーバードライブ、Klon系、オクターバー、ワウやフィルターは、すべてSFTの前に置きます。SFTは、それらを前段に受けたときに大型チューブアンプらしく反応するよう設計されています。フェイザーも前段が無難で、フランジャーやコーラスはどちらでも成立します。
リバーブやディレイは基本的にSFT の後ろです。ただしテープエコー系を「クランクしたアンプに突っ込んでいる」質感で使いたい場合は、あえて前段に置く手もあります。
アンプ側は、クリーンでフラットな設定にしておきます。Fender系であればTREBLE 6、MIDDLE 6、BASS 3、VOLUME 2〜4あたりが目安です。これはCatalinbreadが自社ペダルの音作りに使っている設定でもあります。なお、SFTはアンプのプリアンプ初段を強く駆動するため、真空管の状態がそのまま出音に響きます。
ベースでの使用
SFTはギター専用機ではありません。ギターとベースのどちらにも等しく対応します。国内正規品もギター/ベース兼用オーバードライブとして流通しています。
ベースでの使い方としてまず有効なのが、歪ませずに質感だけを変える方向です。GAINを低く、TREBLEとBASSも低めから始めて必要に応じて上げていくと、ソリッドステートのベースアンプの無機質さが取れ、木質感のある鳴りとタッチへの追従性が加わります。歪ませたい場合やファズ寄りに振りたい場合は、ギターと同じ考え方がそのまま通用します。
スペック
| タイプ | オーバードライブ(ギター/ベース兼用) |
| コントロール | VOLUME、GAIN、TREBLE、BASS |
| スイッチ | STONES / STONER モード切替 |
| 電源 | 9〜18V DC センターマイナス(別売)/9V電池駆動可 |
| 消費電流 | 4mA |
| バイパス | トゥルーバイパス |
| サイズ | 約60mm(W)× 110mm(D)× 50mm(H) |
| 重量 | 約181g |
| 製造 | アメリカ・オレゴン州ポートランド |
| 国内正規輸入代理店 | LEP INTERNATIONAL |
SFTが向いている人・向いていない人
向いている人
- バックラインが選べない環境でも、自分のアンプの鳴りを持ち込みたい
- 歪みをギターのボリュームで操るスタイルで演奏している
- Marshall系・Fender系とは違う、Ampeg由来のフラットで太い土台が欲しい
- クラシックロックとストーナー/デザート系の両方を1台でまかないたい
- 手持ちのブースターやファズを活かす「受け皿」を探している
- ギターとベースの両方で使えるドライブを1台に絞りたい
向いていない人
- すでに歪ませたアンプに、部分的に足すブースターを探している
- 他のアンプシミュレート系ペダルと重ねて使う前提で考えている
- 踏むたびに音色が切り替わる、ソロ用ブースター的な運用を想定している
- モダンハイゲイン特有のタイトで硬質なディストーションが目的
- ボードの省スペース化を最優先している
よくある質問
- ギターとベース、どちらで使えますか?
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どちらでも使えます。SFTはギター/ベース兼用として設計されており、公式マニュアルにもベース使用時のセッティング指針が独立して記載されています。ベースでは、TREBLEを12時より下げた設定が扱いやすくなります。
- STONESモードとSTONERモードはどう違いますか?
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回路構成そのものが変わります。STONESモードは大型Ampegチューブアンプの反応を再現した洗練された歪み、STONERモードはカソードコンデンサの追加とネガティブフィードバックループの除去により、ファズ領域まで届く荒々しいハイゲインになります。STONERモードでは各つまみをSTONESモードより低めから設定するのがコツです。
- 9Vと18V、どちらで使うべきですか?
-
目的次第です。18Vはヘッドルームと音量、アタックの明瞭さが増すため、バンドでの演奏に向きます。9Vはやや柔らかく飽和しやすい鳴りになります。どちらも正解なので、両方試してみる価値があります。
- 他の歪みペダルとの並び順は?
-
SFTを歪み系の最後段に置きます。ブースター、ファズ、チューブスクリーマー系、オクターバー、ワウはすべてSFTの前段です。SFTはこれらを前段に受けることを前提に設計されています。
- アンプ側はどう設定すればいいですか?
-
クリーンでフラットな設定が基本です。Fender系アンプであればTREBLE 6、MIDDLE 6、BASS 3、VOLUME 2〜4あたりが目安になります。すでに歪んでいるアンプをさらに押す使い方も成立しますが、本来の設計意図とは異なります。
- 電池でも動きますか?
-
9V電池で駆動できます。底面の4本のネジを外して交換します。消費電流は4mAです。インプットジャックを抜くと電源が切れる仕様です。
まとめ
Catalinbread SFTは、Ampegの大型チューブアンプをそのまま足元に置き換えるためのペダルです。12時でフラットになるBaxandall型トーンスタック、1ボリュームアンプと同じ感覚のGAIN、ギターのボリュームへの追従性。どれも「アンプとして扱う」という一貫した設計思想から出ています。
そこにSTONES/STONERスイッチが加わることで、洗練されたクラシックロックの土台と、ファズ領域まで届く暴れた歪みという、性格の異なる2台分を1つの筐体で持てるようになりました。電源電圧による音の変化まで含めれば、使い分けの幅はさらに広がります。
常時オンで音の芯を作り、手持ちのペダルをその前に並べていく。そういうボードの組み方をしてみたい方にとって、SFTは長く土台であり続ける1台になるはずです。

