Old Blood Noise Endeavors の Beam Splitter V2 は、1本のギターを何度も重ね録りしたときの響きから発想された歪みペダルです。入力された信号を3つに複製し、それぞれ性格の異なるドライブ回路を通したうえで、そのうち2つには独立したディレイをかけて時間軸をわずかにずらす。この単純な仕組みによって、1本のギターから、複数人で弾いているような厚みと奥行きを持った音像が立ち上がります。ここで取り上げる Shadow は、V2 で用意された3つのカラーのうち、最も落ち着いた色調のモデルです。
重ね録りの発想から生まれた並列構造
スタジオでギターを重ね録りすると、同じフレーズを弾いているつもりでも、タイミングやピッキングのニュアンスがわずかに食い違い、その差異が音の厚みとして聴こえてきます。Beam Splitter V2 が再現しようとしているのは、まさにこの現象です。3つのドライブセクションは直列につながれているのではなく並列に配置されているため、前段の歪みが後段に飲み込まれることがなく、それぞれの音色がキャラクターを保ったまま重なり合います。
歪みを深くしていっても音が団子にならず、輪郭が残るのはこの構造によるものです。3つを均等に混ぜて分厚い壁を作ることもできれば、1つを土台にして残り2つをうっすら添えるといった配分もでき、同じ「歪み」という枠のなかで作れる音の幅がかなり広く取られています。
性格の異なる3つのドライブセクション
3つのドライブは、単に歪みの量が違うのではなく、クリッピングの方式そのものが異なります。それぞれに Gain、Volume、Tone が独立して備わっており、Tone はいずれも右に回しきった状態が最も明るく、左に回すにつれて高域が落ちていきます。
- Drive 1|ハードクリッピング・ディストーション
3つのなかで最もヘヴィで、コンプレッション感の強いセクションです。Gain 1 は歪みの量を決めるだけでなく、上げていくにつれて低域が丸められ、中域から高域にかけての歪みが増していくため、音色そのものの性格も一緒に変わっていきます。 - Drive 2|ソフト+ハードクリッピングのオーバードライブ
3つのなかで最も軽く、明るいキャラクターを持っています。Gain 2 を絞りきるとほとんどクリーンブースト、上げきってもミディアムゲインのオーバードライブという範囲で、中域と高域が持ち上がります。 - Drive 3|トランジスタ・オーバードライブ
ファズに近いゲインの質感を持ちながら、3つのなかで最もピッキングの強弱に反応します。Gain 3 は入力レベルを絞ることでブレイクアップ量を決めるという、他の2つとは異なる動作をするため、絞りきると音量が落ちてクリッピングもほとんどかからなくなります。
2系統のディレイが作る時間軸のずれ
Beam Splitter V2 に搭載されたディレイは2系統で、3つのドライブすべてにかかるわけではありません。Delay Select プッシュボタンで、どの2つをディレイに通すかを選ぶ仕組みになっており、選ばれなかった1つはディレイを通らずそのまま出力されます。点灯している LED のうち左側のドライブが左のディレイ、右側のドライブが右のディレイに送られ、消灯している LED に対応するドライブがノンディレイのまま残る、という対応です。
この「1つは遅らせない」という設計が効いていて、後述するステレオやトリレオでの出力時には、ノンディレイのドライブがセンターに定位し、ディレイされた2つが左右に振り分けられます。音の芯が真ん中に残ったまま両脇が広がっていくため、音像が拡散しても輪郭がぼやけません。
ディレイタイムは Time で最大211msまで設定でき、Feedback は Time が短いときには強いコムフィルター効果として、長いときには尾を引くリピートとして働きます。数十msの領域に留めておけば重ね録りのダブリング、そこから伸ばしていけばスラップバックへと、同じ2つのノブで性格の違う効果が得られます。
そして Deviate が、このペダルの表情を決定づけるコントロールです。ディレイタイムにランダムな揺らぎを与えるもので、上げていくほど揺れの頻度と幅が増していきます。揺らぎは Time で設定した値を上限として短くなる方向にかかり、しかも左右のディレイで別々に発生するため、揺れ方が同期しません。この不揃いさが、設定によってフランジング、コーラス、あるいは崩れたビブラートのような響きとして現れます。もともと重ね録りをする演奏者のわずかな不正確さから着想されたコントロールで、機械的に揃った音ではなく、人が何度も弾き直した音の質感に近づけるための仕掛けです。
モノラルからトリレオまで、4通りのルーティング
出力の構成は4種類から選べます。On/Off フットスイッチを押しながら Preset スイッチを押すことで切り替わり、プリセット用の LED の点滅パターンが現在の設定を示します。
| ルーティング | ケーブル | 動作 |
|---|---|---|
| Mono | 入力 TS/出力 TS | 3つのドライブを並列で通したあと、モノラルにまとめて出力 |
| Mono In Stereo Out | 入力 TS/出力 TRS | モノラル入力を3つのドライブへ。ノンディレイがセンター、ディレイされた2つが左右に展開 |
| Stereo | 入力 TRS/出力 TRS | ステレオ入力をいったんモノラルにまとめてから3つのドライブへ通し、ステレオで出力 |
| Trereo | 入力 TS/出力 TRS+Aux TS | ディレイされた2つをメイン出力へ、ノンディレイの1つを Aux 出力へ独立して送出 |
ギター1本で使う場合、実質的な標準となるのは Mono In Stereo Out です。入力はいつもどおり普通のシールド1本、出力だけをステレオにすれば、センターに芯のある広がった音が得られます。Trereo は、ディレイのかかった2系統とかからない1系統を物理的に分けて送り出すモードで、アンプを3台立てる場面や、ウェットとドライを別々に処理したい録音時に活きてきます。
ステレオの広がり幅は Spread で調整します。絞りきった状態では左右への振り分けがなく、上げていくにつれて2系統のディレイが外側へ開いていきます。ただし Mono に設定しているとき、またはドライブセクションが1つしか動いていないときには Spread は機能しません。
ルーティングとバイパス方式(トゥルーバイパス/トレイル付きバッファードバイパス)の設定は、プリセットごとではなくグローバルに保存されます。一方、エクスプレッションの割り当てはプリセットごとに保存されるため、曲ごとに違うノブへアサインしておくことができます。
V2で加わった操作性
V2 で最も大きく変わったのは、フットスイッチが3基になったことです。初期状態では、中央が本体のオン/オフ、左右がプリセットの送り戻しに割り当てられています。オン/オフは踏み方によって挙動が変わり、軽く踏めばその状態で固定され、踏み続けている間だけ切り替わって離すと元に戻る、という使い分けができます。
もうひとつの使い方として、3つのフットスイッチをそれぞれのドライブセクションのオン/オフに割り当てることもできます。On/Off スイッチを踏みながら Delay Select を押すと切り替わる仕組みで、この2つのモードは排他的です。演奏中に歪みの重なり具合そのものを増減させたいならこちらのモード、曲ごとに音色をまるごと切り替えたいならプリセット送りのモード、という選び方になります。
プリセットは本体に3つ、そのほかにノブの位置がそのまま反映されるライブモードがあります。MIDI のプログラムチェンジを使えば127個まで扱えるため、本格的にシステムへ組み込む場合にも足りなくなることはないでしょう。MIDI 端子は 3.5mm TRS の In と Out を備え、コントロールチェンジによってすべてのノブと設定を外部から操作できます。エクスプレッションペダルについても、対象となるノブを任意に組み合わせて割り当てられ、複数のノブを1本のペダルで同時に動かすといった設定も可能です。
主なスペック
| ドライブセクション | 3系統(各 Gain / Volume / Tone) |
|---|---|
| ディレイ | 2系統(各 Time / Feedback、最大211ms) |
| そのほかのコントロール | Deviate、Spread、Delay Select |
| フットスイッチ | 3基(オン/オフ+プリセット送り、またはドライブ個別オン/オフ) |
| プリセット | 本体3個+ライブモード/MIDI 経由で127個 |
| 入出力 | 入力 TS・TRS/メイン出力 TS・TRS/Aux 出力 TS |
| MIDI | 3.5mm TRS(Type A)In / Out |
| エクスプレッション | TRS エクスプレッション端子(全ノブに割り当て可能) |
| USB-C | ファームウェアアップデート用 |
| バイパス | トゥルーバイパス/トレイル付きバッファードバイパス(切替式) |
| 電源 | 9V DC センターマイナス 2.1mm、350mA 以上(電源は別売) |
| カラー | Shadow / Cool / Warm ほか |
電源については、350mA を必要とする点に注意が必要です。一般的なパワーサプライの1系統あたりの供給量では足りない場合があるため、導入前にお使いのサプライの出力を確認しておくと安心です。
よくある質問
- ディレイは3つのドライブすべてにかけられますか?
-
ディレイは2系統のため、3つのうち2つまでです。Delay Select でどのドライブを通すかを選び、残りの1つはディレイを通らずに出力されます。この構造があるからこそ、ステレオ時にセンターへ芯が残る音像が成立しています。
- モノラルのアンプ1台でも使えますか?
-
Mono に設定すれば、3つのドライブを並列で通したうえでモノラルにまとめて出力されます。ただしこの場合は Spread が機能しないため、ステレオならではの広がりは得られません。
- トリレオ出力には何が必要ですか?
-
入力に TS ケーブル、メイン出力に TRS ケーブル、そして Aux 出力にもう1本 TS ケーブルを接続します。メイン出力からディレイのかかった2系統が、Aux 出力からノンディレイの1系統が出力されるため、受け側には3チャンネル分の環境が必要になります。
- ギター以外の楽器にも使えますか?
-
入力段はモノラルとステレオの双方に対応しており(ペダルがオンのときステレオ入力はモノラルにまとめられます)、シンセサイザーやドラムマシンなどライン楽器を通す使い方も想定できます。並列に重なる歪みと2系統のディレイという構造は、単音のシンセに厚みと広がりを与える用途とも相性がよい設計です。
まとめ
Beam Splitter V2 は、歪みの種類を切り替えるためのペダルではなく、1本の楽器から複数の音を生み出して重ねるための装置です。3つのドライブを並列で走らせ、そのうち2つの時間軸をずらし、Deviate でその関係をわずかに揺らす。この積み重ねによって、単体の歪みペダルでは届かない厚みと空間が生まれます。V2 では3基のフットスイッチとプリセット、MIDI、エクスプレッションへの対応が加わり、その音をステージ上で自在に扱えるところまで機能が整えられました。アートワークは Dustin Charles によるものです。
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Old Blood Noise Endeavors
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