ピアノのペダルを踏むと、鳴らした和音がふわりと伸びて、その上で右手が次のメロディを弾ける。あの感覚をギターでも味わえないか——GAMECHANGER AUDIOのPLUS Pedalは、その一点だけをまっすぐ突き詰めたペダルでした。フリーズ系のように音がピタッと固まるのとは違って、弾いたときの表情を残したまま音が伸びていく。この質感が独特で、他に似たものがないまま長く愛されてきました。その後継となるPLUS Pedal IIは、心臓部のエンジンを新しくしたうえで、初代を弾き込んだ人ほど「ここがこうだったらな」と思っていたところに、きちんと手が届いています。
どんな人に響くペダルか
いちばん幸せになれるのは、和音を鳴らしたまま、同じ手でそのままソロを弾きたい人だと思います。ルーパーだと小節やテンポに縛られてしまいますが、このペダルはそこが自由です。フレーズの切れ目を気にせず伴奏を宙に残しておけるので、ソロ・ギターやアンビエント、映像に音を付ける仕事をしている方には、他では代えのきかない相棒になります。
今回からマイクを直接挿せるようになったのも大きくて、ギター以外を鳴らす人にとっての間口がぐっと広がりました。歌声や管楽器、アコースティックの響きをそのまま持続音に変えたい、という用途なら、これ一台で話が済みます。
反対に、ただ音を伸ばしたいだけなら、もっと気軽なフリーズ・ペダルで十分です。このペダルの面白さは、伸ばした音を弾きながらどう転がすかにあります。そこに惹かれないなら、少し持て余してしまうかもしれません。
Spectral Samplingエンジンがもたらしたもの
新しく積まれたSpectral Sampling™エンジンは、入ってきた音をスペクトルの単位までほどいて、もう一度組み直します。音量だけを引き延ばすのではなく、音色や倍音の重なり、弾いた強弱までまるごと抱えたまま伸ばしてくれる、というのがポイントです。初代から続くReal-time Audio Sampling™と手を組んで動くので、音を凍らせずに自然と反応してくれる、あの気持ちよさはそのまま残っています。
伸びた音の表情を作っているのが、デュアル・レゾネーターとTONEノブです。レゾネーターは鳴っているレイヤーそれぞれの中身を聴き取りながら、高いところと低いところの共鳴を絶えず揺らしていきます。TONEはレイヤー一つひとつに別々のフィルターの動きを与えるので、伸ばした音が時間とともに少しずつ色を変えていく。ただのトーン調整のツマミではありません。持続音がのっぺりした効果音にならず、どこか呼吸するように鳴り続けるのは、この二つの働きによるものです。
CATCHとHOLD——弾き味を決める二つのスイッチ
スペック表の中では地味な二つですが、実際に足を乗せて弾くと、いちばん手応えに関わってくるのがここです。初代にもGROUPとSINGLEの切り替えはありましたが、IIではCATCHとHOLDとして整理され、選べる表情が増えました。
CATCHは、新しく弾いた音をどう拾うかを決めるスイッチです。ALLなら弾いた音が片っ端からレイヤーになり、SINGLEなら一音ずつ丁寧に積んでいけます。とりわけ使いどころが多いのがGROUPで、決めた数だけ拾ったらそこで受付が締め切られます。つまり、和音を鳴らして拾わせたら、あとは足を離さずにその上でソロを弾いていける。踏み直す必要がないので、演奏の流れが途切れません。ここが弾いていていちばん楽しい瞬間かもしれません。
HOLDは、拾ったあとの音がどう振る舞うかを決めます。ALLなら全部のレイヤーが鳴り続け、FIRSTなら最初の一音だけ残して、後から積んだ音は自然に消えていく。NONEにすると拾った端から減衰が始まるので、余韻をうっすら重ねたいときに向いています。立ち上がりと消え際は、RISEとDECAYのノブでそれぞれ別に整えられます。
重ねられる層は、LAYERSノブで1層から10層まで。さらに古いレイヤーを混ぜ合わせながら延々と鳴らし続けるインフィニート・モードもあります。初代が最大5層だったことを思えば、積める余白はずいぶん広がりました。いま何層鳴っているかは、11個のLEDが並ぶ円形ディスプレイで一目でわかるので、耳だけを頼りに数えなくて済みます。
初代から持ち替える人にとって、いちばんありがたいのはAuto Layer Catchかもしれません。ペダルを踏んだまま普通に弾いているだけで、エンジンが新しい音の立ち上がりを聴き分け、ノイズを除きながら勝手にレイヤーを積んでいってくれます。初代では踏むタイミングを自分で見計らう必要があって、そこで少し苦労した覚えのある人も多いはずです。その気配りが要らなくなりました。
ブラスのペダルは、オンオフの道具ではない
新しく積まれたオプティカル・センサーは、ブラス製ペダルの位置を、踏み込みの端から端まで読み取ります。初代のペダルは二段階を検知する方式でしたが、IIでは踏み込み具合に応じて、鳴っているレイヤー全体の音量とリリースの曲線がなめらかに変わっていきます。感触が良くなった、という話にとどまりません。踏み方そのものが表現の一部になるわけです。そっと戻して自然に減衰させるのもいいし、可動域をめいっぱい使って、伸びた音にスウェルをかけていくのもいい。足元で音を「弾く」感覚に近いものがあります。
入り口が広がった
コンボXLR/TS入力にマイクプリアンプが組み込まれ、専用のゲイン・トリムで最大+27dBまで持ち上げられるようになりました。初代でもマイク自体は挿せましたが、レベルを合わせるのにひと手間かかっていました。IIはその調整が本体の中で完結します。
ここは一点だけ気をつけてください。対応するのはダイナミック・マイクだけで、ファンタム電源は出ません。コンデンサー・マイクを使いたいときは、別に電源を用意することになります。なお標準の1/4″で挿した場合はプリアンプを通らず、これまで通りの楽器入力として素直に働きます。
見落とされがちですが、KILL DRYスイッチも気の利いた機能です。原音はアンプでそのまま鳴らしておいて、PLUS Pedal IIからは伸ばしたレイヤーだけを出す、という並列の組み方ができます。アコースティック楽器を生の音で響かせつつ、持続音だけをPAへ送る、といった場面で重宝します。
三つの位置を選べるステレオFXループ
SEND、RETURNともTRSでステレオに対応したFXループを備えていて、外部エフェクトをどこに挟むかをスイッチ一つで切り替えられます。ケーブルを差し替える手間はありません。
- PRE:エンジンの手前に置く設定です。ここにディレイを挟むと、繰り返す音そのものがレイヤーになって積まれていきます。
- FX LOOP:伸ばしたレイヤーにだけ効きます。原音はクリアなまま、伸びた音にだけリバーブを深くかける、といった芸当ができます。
- POST:出力のミックス全体にかかります。ただしDry Out端子から出る信号には影響しません。
コーラスもフランジャーもピッチシフターも、歪みものまで、ループの中で気持ちよく働いてくれます。同じディレイ一台でも、置き場所を変えるだけで役割ががらりと変わる。ボードを増やさずに音の引き出しを広げられるのは、実際に組んでみると効いてきます。
別売フットスイッチがあると何ができるか
別売のPLUS Pedal II Footswitch(専用のTRSケーブルが付属します)を足すと、三つのモードを足元で切り替えられるようになります。
- WET:メイン出力から原音を切り離し、伸ばしたレイヤーだけを鳴らします。
- LATCH:ブラス・ペダルを踏み続けなくても、エンジンをアクティブなまま保ってくれます。長いドローンを鳴らしっぱなしにしたいときに。
- HIDE:ブラス・ペダルを踏んでいる間だけ、原音をそっと引っ込めます。
フットスイッチ側にも専用のDRY OUTが付いているので、原音だけを別のアンプへ回す二台使いの構成も組めます。ライブで本気で使うつもりなら、本体と一緒に手当てしておくほうが、後から悔しい思いをせずに済みます。
購入前に、ここだけは確認を
電源はDC9Vのセンターマイナス(2.1×5.5mm)で、500mA以上が要ります。アダプターは付属しません。ここは初代から乗り換える人ほど注意したいところで、初代は200mAで動いていました。IIは500mAと倍以上に増えているので、いままで使っていたパワーサプライがそのまま使えるとは限りません。500mAをまかなえるアウトが一つか二つに限られている電源も少なくないので、手持ちの空き具合を先に見ておくと安心です。
本体のサイズは90×195×72mmで、これは初代とまったく同じ。重さは995gと、初代の1020gよりわずかに軽くなっています。ボードのレイアウトを組み直さずにそっくり置き換えられるのは、初代ユーザーには地味にうれしいところです。ただ、ペダルというより小さな機材に近い体格なので、新しく迎え入れるなら、それなりの一等地を空けておくつもりでいてください。
もう一つ、OUTとSEND、RETURNはいずれもTRSでステレオに鳴ります。手持ちのTSケーブルをそのまま挿すとモノラルになってしまうので、ステレオで組むならTRSケーブルを用意しておいてください。
主要スペック
| 楽器入力 | 1/4″アンバランスTS(コンボ)/モノ、1MΩ |
| マイク入力 | バランスXLR(コンボ)/モノ、22kΩ、ゲイン最大+27dB、ダイナミック・マイクのみ(ファンタム非対応) |
| FXループ | SEND/RETURNとも1/4″アンバランスTRS/ステレオ |
| 出力 | メイン:1/4″アンバランスTRS/ステレオ、FSW/DRY OUT:1/4″アンバランスTRS(外部フットスイッチ入力と兼用)、100Ω |
| デジタル・オーディオ | 44.1kHz/24bit |
| コントロール | ブラス製フットペダル、LEVEL、LAYERS、RISE、DECAY、TONE、RESONANCE、CATCH/HOLD/FX LOOP/KILL DRYスイッチ、XLR GAIN |
| ディスプレイ | 11 LED円形ディスプレイ |
| USB | USB-C(USB-MIDI、ファームウェア更新) |
| 電源 | DC9V/500mA以上/センターマイナス/2.1×5.5mm(アダプター別売) |
| 平均消費電力 | 2.4W |
| 外形寸法・重量 | 90×195×72mm/995g |
おわりに
PLUS Pedal IIは、気軽に手を出せる機材ではありません。ボードの場所も電源も、それなりに要求してきます。それでも、和音を鳴らしたまま同じ手でソロを弾く、マイクで拾った声をそのまま持続音に変える、伸びた音にだけ空間系を深くかける——こうしたことを一台でやろうとすると、やっぱり代わりが見当たらないのです。初代を弾いたことのある人なら、Auto Layer Catchで音が勝手に積まれていく心地よさと、踏み込みをまるごと拾ってくれるブラス・ペダルの二つに、まず驚くと思います。使いどころがはっきり見えている人ほど、長く手元に置きたくなる一台です。

