エフェクターを自作してみたいけど何から始めればいいんだろう?道具やパーツは何が必要?費用は一体どれくらいかかるんだろう…。
そこで!これからエフェクター作りに挑戦してみたい初心者の皆さまにむけて自作エフェクター入門講座を開講いたします。
講師は”痛エフェクター”のパイオニア的ブランド「Sound Project “SIVA”」を主宰するビルダー小澤博氏。エフェクター作りの基本や基礎知識が学べるのはもちろん、実際に小澤氏が使用しているおすすめの工具やパーツもご紹介していただきます!趣味としてはもちろん、もっとスキルアップしたい方、さらには将来自分のエフェクターブランドを立ち上げてみたい本格派の方も必見のコンテンツです。
小澤博氏プロフィール ”痛エフェクター”のパイオニア的ブランド「Sound Project “SIVA”」を主宰するエフェクタービルダー。完全オリジナルのイラストを纏ったケースはもちろん、優れた機能とハイクオリティサウンドで世界中のアーティストから注目を集めている。最近ではエフェクターのみならずアンプキャビネットの開発を行うなど活躍の幅を広げている。 ≫ Sound Project “SIVA”のエフェクター一覧はこちら |
今回は前回の筐体加工編で穴あけをしましたアルミケースを塗装していきたいと思います。
塗装をしなくてもエフェクターを完成させることもできますが、ノブを選び筐体の色をそれに合わせて全体としてのデザインをしてあげることで、完成したときの満足度がかなり高くなります。手間をかけた分だけ、完成したエフェクターへのさらなる愛着がわくものです。
今回は簡単な塗装のやり方の解説になりますので、単色で均一に色を塗りたいと思います。
筐体の塗装をするにあたり、心がけていただきたい事があります。
焦らない。
塗装における鉄則です。焦って一気に厚く塗ろうとすると、塗料が垂れてきてしまいます。塗装が乾くまでにはある程度の時間が必要です。焦らずに、少しずつ焦らずに作業を進めていくことが塗装の成功の鍵です。
- 準備
- 塗装
筐体の塗装をするための道具を揃えたり、下準備をします。
スプレー缶を使って、筐体に色をつけていきます。
サンドペーパーの持ち方、中研ぎ、中塗り、などの色々な細かい作業、注意点を省略しています。
1:準備
道具、材料
まずは必要な道具と材料を用意します。どれもホームセンターで買えたり、家にあるものばかりです。
・ラッカースプレー缶(好みの色)
・メタルプライマー
・クリアスプレー
・サンドペーパー(240番から280番くらい)
・中性洗剤
・発泡スチロールブロック
・爪楊枝
穴あけ済み筐体
前回の筐体加工編で穴あけをしました、アルミダイキャストケースです。穴あけをしていないエフェクターの底蓋も塗装をします。
ラッカースプレー缶(好みの色)
ホームセンターで売っているラッカースプレー缶で大丈夫です。私はアサヒペンとアレスコのラッカースプレーから好みの色を選んで使っています。エフェクター一台程度でしたら300mlの缶で十分ですが、たくさん作る方は450mlの大きめの缶のものを買ったほうが良いでしょう。だいたい450mlのスプレー1缶で1590Bサイズの筐体が15台分くらい塗れます。
今回はノブに黒いマーシャルタイプのものを選んだので、筐体も黒で塗りたいと思います。
メタルプライマー
色をつける前に、塗料の筐体への食いつきをよくするために、下地にメタルプライマーを吹きます。
クリアスプレー
色をつけた上から重ねて、透明の保護層を作るために吹きます。ラッカースプレー缶と同じラインナップの中に『クリア』や『透明』と言う色のものがありますので、それを使います。色をつけるためのラッカースプレー缶と同じメーカーのものが無難ですが、アサヒペンとアレスコのラッカースプレーでしたら、どちらのものを使って問題はありませんでした。
サンドペーパー(紙やすり)(240番から280番くらい)
穴あけしたアルミ筐体の表面を均したりするために使います。鏡面仕上げにするほど磨き上げる必要はないので、これくらいの番手のものが一枚あれば十分です。
中性洗剤
アルミ筐体表面についている、余分な油分を取り除くために使います。普通に食器洗いに使っている台所用中性洗剤ならどんなものでも大丈夫です。
発泡スチロールブロック
塗装のための台として使います。エフェクター1台でしたら1個のブロックを二つに切って事足りますが、複数台を塗るようでしたらいくつか多めに用意しましょう。
ホームセンターや100円ショップなどで、だいたい1個300円くらいで売っています。
爪楊枝
アルミ筐体のネジ穴に入れて、発泡スチロールブロックに刺すための脚にします。
下準備
アルミ筐体にスプレーを吹く前に、下準備をします。
サンドペーパー
まずは、穴あけをしたアルミ筐体にサンドペーパーをかけます。私は240番のサンドペーパーを使っています。
サンドペーパーは簡単に手で切れますので、写真のくらいの手に馴染む適当な大きさにちぎると使いやすいです。
サンドペーパーをかける目的としては、『筐体表面の細かい傷をならす』ためと『塗料の食い付きを良くする』ための二つの目的のために行います。
Hammondやタカチなどの信頼あるメーカーの筐体では、ほとんどヘアラインな傷(髪の毛のような細い線傷)や打痕はありませんが、安価なノーブランド品などでは筐体表面があまり綺麗でないことがあります。そのようなものは、そのままでは仕上がりがあまり綺麗ではないので、サンドペーパーを当てて表面を整えてあげます。
上記のような例とは逆に、あまり筐体表面がツルツルしすぎていると塗料の食いつきがよくないので『とっかかり』を作るためにサンドペーパーで細かい傷をつけてあげます。
筐体表面に満遍なくサンドペーパーを当てていきます。
筐体の角の部分、部品を取り付ける穴の周りは、忘れやすいのでしっかりとサンドペーパーを当てます。
サンドペーパーをかける作業は『磨き上げる』ことが目的ではありませんので、そこまで神経質に行う必要はありません。目視できる大きな傷がなく、サンドペーパーの細かい痕が満遍なく見える程度にできれば大丈夫です。
脱脂、乾燥、配置
アルミ筐体表面についている、余分な油分を中性洗剤を使って洗い落とします。油分が残っていると、塗料を弾いて綺麗に塗装ができません。また、洗剤が残っていても塗料を弾いてしまうので、しっかりと水で洗い流しましょう。
しっかりと乾かしたら、スプレーがしやすいように発泡スチロールブロックに筐体を配置します。
今回は2個を同時に塗装しますので、このように置きました。裏蓋になるものはそのまま発泡スチロールブロックに置けばいいのですが、ジャックなどを取り付ける方は、爪楊枝を使って『脚』を作って配置します。この脚は後ほど筐体の向きを変える際に役立ちます。
乾燥した筐体にはできるだけ素手で触らないようにしましょう。手の油分がついて塗料を弾いてしまうので、手袋を着用したり脚になる爪楊枝でひっくり返すなどの対策をして作業をしましょう。
ここまでできたら、塗装の準備は完了です。
2:塗装
塗装はスプレー缶を使って、3層に分けて行います。
まずは下地となる『プライマー』。その上に色をつける『色づけ』。最後に仕上げで透明な『クリア』を吹いて、乾燥させたら完成です。
環境、スプレーの吹き方
環境
スプレーを吹く環境には専用の塗装ブースがあるのが理想ですが、そのようなものを準備するのは大変です。そんな時は屋外の周りに迷惑のかからないところで行いましょう。細かい埃やゴミ、虫がつかないか?と心配される方もいると思いますが、そこまで気にするようでしたら専用の塗装ブースを作りましょう。
私の場合は、近所に民家まで少し距離のある防波堤がありましたので、そこで塗装を行いました。よく聞く話では、人のいない時を見計らって、公園などで塗装をする方も多いようです。
スプレーの吹き方
スプレーの吹き方には、いくつかのコツがあります。初めてスプレーを使う方にはこれを知らずに、厚く吹きすぎて塗料が垂れてしまうなど綺麗に仕上げられない方も多いと思います。
スプレーを吹き始める時は、対象物(今回はアルミケース)から少し外れたところでトリガーを押して吹き始めます。ここで、塗料がちゃんと出ているか(溶剤、ガスだけが噴出されていないか)、対象物までに距離は適切かを確認します。スプレーと対象物の距離は30cmくらいがいいのですが、これは無風の室内の話で今回のように屋外ですと半分の15cmくらいでもいいと思います。
対象物から外れたところでスプレーを吹き始めて、対象物を動かさずにスプレーを持つ手を動かして、塗料が対象物を通過するように塗料を吹き付けます。塗料が対象物に当たっているときに決してスプレーを持つ手を止めないでください。途中で手を止めてしまうと、その部分だけ塗料が厚くなり『ダマ』になって吹き付けた塗料が垂れてしまうことがあります。トリガーはしっかりと奥まで押し込んだままにしましょう。
最後の吹き終わりにトリガーをもどすのは、噴出された塗料が対象物を通過した後に行います。吹き始め、吹き終わりの、ノズルがしっかり押されていない中途半端な状態では、スプレー内のガスだけが噴出されて塗料以外の余分な物が対象物についてしまうことがあります。
また、一方向から二、三回スプレーを吹きますが、この時に対象物の角度を変えて、塗料が側面と天面にそれぞれ着くようにします。
プライマー(下地)
まずは下地となるプライマーを吹きます。プライマーには、金属表面に塗料をしっかりと定着させる下地となる効果があります。プライマーのスプレーの吹き方は上記の要領で行います。
片側から吹いたら、反対側も同様に吹きます。
次にプライマーを吹いていない短い辺の2面にプライマーを吹くために、ケースの向きを変えます。脚としてつけた爪楊枝を持って、ケースには手を触れないように気をつけて向きを変えましょう。
先ほどプライマーを吹いていない2面を、同じ要領で吹きます。
底蓋になるものにも、プライマーを吹きます。こちらは4方向からスプレーが吹けるので、アルミケースの向きを変える作業はいりません。短い辺の方向から吹くときは、手間のものを狙って2回、奥のものを狙って2回吹きます。発泡スチロールに固定されていないので、斜めにする時に角度をつけすぎて滑り落ちないように気をつけましょう。
プライマーは二度塗りますので、もう一度重ね塗りします。やり方は一緒なので、先ほどと同じ作業をもう一回行います。一回プライマーを吹いてから、2回目まで時間をおいて乾燥させましょう。乾燥させる時に、直射日光の当たるところで乾燥させるとケースの温度が高くなりすぎて、吹き付けた塗料に気泡が入ったりする原因になるので、日陰で乾燥させましょう。
プライマーを吹き終わったものがこちらになります。プライマーには色がないので、この時点ではまだアルミ筐体の表面の色が見えます。
色づけ
いよいよここから、色をつけていきます。今回は光沢のある黒で締まりのある感じにカッコよく決めたいと思います。
スプレーを使った作用手順としてはプライマーを吹いたときと同じ要領です。スプレー缶を使った塗装では、プライマー、色づけ、クリアー、すべて同じ要領で作業を行います。違うのは、選ぶスプレーの種類だけです。
一度目の色付けをすると、写真のような感じになります。まだまだ下のアルミの色が見えますが、一度目はこれくらいで大丈夫です。焦って一気に色をつけようと、厚くスプレーを吹いてしまうと塗料が垂れて失敗してしまいます。失敗するとサンドペーパーかシンナーで一度塗装を全て剥がして最初からやり直しになってしまいます。最初からやり直すよりも、色が薄かったらスプレーの回数を増やして重ね塗りをした方が結果的に手間もかかりませんし綺麗に仕上がります。
しばらく乾燥させて、2回目の色付けをします。
2回目の色付けをしたものがこちらです。
色付け二回だけではまだ下のアルミ色が見えていますが、焦りは禁物です。
3回目の色付けをしたものがこちらです。
だいぶ綺麗に色が乗ってきました。まだ下のアルミ色が浮いて見えるところもありますが、全体的にはかなり黒くなってきました。
4回目の色付けをしたものがこちらです。
ほぼ真っ黒に仕上がってきました。ジャックなどを取り付ける側の天面が少しアルミ色が浮いているので、こちらだけもう一度スプレーを吹きましょう。底蓋になる方は綺麗に色がついたので、こちらはこれで色付けは仕上がりにしたいと思います。
5回目の色付けをしたものがこちらです。今回はジャックなどを取り付け側の方だけです。
ジャックなどを取り付け側の方も綺麗に黒くなったので、これで色付け完了です。
色付けがどれくらいで完了したと判断するかは、下地の色(今回はアルミ筐体の色)が見えなくなれば、色付けは完了と判断して大丈夫です。
手は汚れないの?
お気付きの方もいると思いますが、私は手袋をしていません。なので、塗装台を持っている手にもスプレーがかかるので、もちろん手が汚れます。
これくらいには手が汚れます。石鹸で洗えば簡単に落ちるので私はあまり気にしないで作業をしています。
手が汚れるのが嫌な方は、軍手をして作業をしてください。
クリア
仕上げに透明色のスプレーを吹いて、表面を保護します。色付けで使ったスプレーの商品ラインナップの中に『透明』や『クリア』というものがあると思いますので、それを使います。
クリアもスプレー缶ですので、吹き方はプライマー、色付けでやった要領と一緒です。
一回目のクリアを吹くとこのような感じになります。当たり前ですが、透明色なので色が変わることはありません。
少し乾燥させて、クリア塗装二回目を行います。それほど厚く塗る必要はないので、クリアは二回塗れば完成です。
乾燥させて完成
しっかりと乾燥させたら塗装は完了です。
スプレー缶のラベルには乾燥時間の目安が書いてありますが、その時間通りだと乾燥が足りないことがあります。私は念のため24時間以上乾燥時間を取るようにしています。
これで塗装作業は全て完了です。
今回紹介したやり方は、『これくらいでも色は塗れるよ』というあくまで初心者向けのものです。それでも、無塗装のものよりは格段に見栄えが良いものにすることができます。塗装をすることで筐体の色とノブの種類や色の組み合わせを考えたり、完成品のイメージを膨らませる楽しみが増えます。